表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
RUSH  作者: 或田いち
FILE6.落下する夕暮れ
138/201

19

 

「…あ、ちょっとそこのあんた」

「?」

「成滝知らない?あのほら、仏頂面で、ちっこいの」


 名前も知らない生徒に背丈こんくらいでこんな顔の…と顔真似をして見せると、そいつは怪訝そうに眉を顰めた。なんだよ、ノリ悪りぃな。そう言いかけたところで、そいつは開口する。


「成滝ならさっき、帰ったよ」

「うわ、マジか。くそ」

「…でもあれってたぶん…」


「?」


「阿出野っ…!」


 言葉を濁す男子生徒に今度はこっちが首を傾げると、左方向からバタバタと二人の女子生徒が駆けて来た。一年の時同じクラスだった山中と中野(通称山中野コンビ)だ。

 ぜえひゅうと肩を弾ませて、人の隣に来るなり膝に手を置き呼吸を整える。


「…阿出野…っ大変だよぉ…成滝ちゃんが…成滝ちゃんが…っ」

「なるがどうした」

「あんたなんでしんないの!?成滝さん…たぶん二年になってから田嶋さん達のグループから嫌がらせされてたんだよ!?

 今日も…くっ、口止めされてたけど遊びに行くフリして成滝さん相当ヤバい感じだよ!」

「ヤバい感じって何だよ」


「…大学生呼ぶとか言ってた」


 言葉を濁していた男子生徒が零す。頭で考えるより先に胸倉を掴んでいた。


「…どういう意味」

「…かっ、カラオケに…田嶋が、いつもの女子仲間と一緒に行こって成滝を、誘って…で、でも本当はそこに…田嶋、男友達連れ込んでて…


 な…成滝…あいつに…せ、制裁するんだって…それで…」


 怯え切った男子生徒を突き飛ばし、腕時計を見る。考えるより先に、もう本能のままに体が動いていた。


「どこのカラオケ」

「駅前の“ウタカラ”!!」


 山中が言い終えるより先に駆け出した。その背中で、男子生徒が"俺が言ったって言わないでくれよ!"とかなんとか叫んでいた気がしたが、そんなのは二の次だった。

 なぜ気づかなかった、なぜ知ろうとしなかったのだ。それだけがただただ無念で、歯がゆくて、もどかしかった。

 走りながら、思い出して夕凪にメールを送る。この分では約束の時間に間に合いそうにもないと思ったからだ。


【件名:わるい

急用で遅れる。

先に帰って待っててくれ】


 しばらくしてから、携帯がバイブした。


【件名:Re:わるい

わかった。家で待ってるね】


 その返事を見るなり、俺は携帯を制服のポケットに押し込んで、言われた通りのカラオケ店に乗り込んだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ