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「強制解雇ぉ!?」
休憩時間。廊下の隅で受話器に向かって声を荒げ、口を塞ぐ。
「なんでまた」
《わかんない…!お父さんなんか急に上の人に首切られちゃったとかで…!今すごいバタバタしてるの、いや私は大丈夫だけどお父さんが…》
「…、、」
急なことに頭が真っ白になった。なぜ。仕事は順調だったはず、ちょっと前まで昇格がどうとか、うなぎ登りで騒いでいたじゃないか。そこで不意に、妹が言っていた言葉が脳裏によぎった。
ーー隠れてこそこそ電話していてーー
まさか。
親父に限って、そんな。
《どうしよおにぃ、こういうときどうしたらいいの?強制解雇ってなに?お父さんなんか悪いことしたのかなぁ》
「…わからん、だけどお前がこのまえまで言ってたことを思い出す限り、ひょっとすると人様に顔向け出来ないことをしていたのかもしれない」
《例えば!?》
「…偽装とか…わかんねーよ、親父の仕事のことなんだから」
《…どうしよ…お父さん塞ぎこんじゃって…話しかけても全然答えてくれないの…こんなの初めてだよ…》
受話器越しに届く半泣きの声に歯を食いしばる。…あの父親は、家族に迷惑かけてまで一体何をやってんだ。
「…とにかく詳しい事情を聞きたい、近いうちに家行くわ。お前いつなら空いてんだ」
《…今日明日は部活で遅いから…明後日なら多分…》
「わかったその日開けとけ。そんで親父に兄ちゃん怒ってたって一発喝いれとけ」
《うん…》
相手が切るのを待ってから、通話停止ボタンを押し深い、深い息をつく。あまりの事に膝から崩れ落ち、壁にもたれたまましゃがみ込んだ。
「…何が軌道に乗ってるだ…」
母親はきっとこのことを知らないはずだ。いずれ報せる必要がある、彼女がいう、
、、、、、、、、、
例え俺らが他人でも。
かつての、家族なのだから。
しかし、いつも疲れた様子で帰ってくる母に、拍車をかけるような悲報を伝えるのは気が乗らず、想像するだけで胃が痛くなった。