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RUSH  作者: 或田いち
FILE6.落下する夕暮れ
134/201

15


 

「弟が作ってくれた。将来は料理人になりたいらしい」

「弟いたのか」

「今小6。昔から弱虫で、近所の同級生にいじめられてはいつも私に泣きついてきていた」


 そんな弟だったため、私は弟を護るためにいつも男の子と喧嘩ばかりしていたし、そのうち喧嘩の仕方も覚えるようになって、男友達も出来た頃には、言葉遣いも完全に男まさりになっていて、周りに女子っ気は全く存在していなかった、となるはいう。


「…中学の時は劇で王子の役をした。姫役の子からは絶賛されたけど、私だって憧れたことがある」

「…」


「こう見えて結構乙女思考なんだけどな」

 

 伏し目がちに言葉を連ねるなるを横目に、弁当を見やる。赤い箸でタコさんウインナーがなるの口に向かう途中で、相手の手首を掴んでそのタコ(ウインナー)に食らいついた。


「っ、…おま」

「周りの目なんか知るか」

「…?」


「男らしかろうが女々しかろうが。お前はお前だ」


 空腹の胃袋にウインナーが落下してきたことで、やや胃が落ち着く。脂っこいウインナーを含んだ口元を拭うと、俯いていたなるがやんわりと口を開いた。


「……ありがと」


 ぎゅう、と胸が締め付けられた。一足遅れて、とくとくと心臓の音が響く。寒いはずなのに、耳が赤くなって、顔が火照った。これは…


「つーかお前タコ食うなよ」

「ごめんつい」






 時は瞬く間に流れて、春になった。春になって、二年生になって。俺となるは、クラスが離れた。


「よろしく、あで」


「…なんでお前がそれで呼ぶのやめてくんない」

「またまたー成滝ちゃんには呼ばせてたくせにぐぎゅぶ」

「二度言わせんな、お前が呼ぶな。いいですか?」

「…フォイ」


 乱暴に遠藤の顎から手を振り払い、頬杖をつく。一年で割と充実していたからだろうか、二年のクラスは当たり障りのない、無難なクラス。というのが第一印象だった。

 癖でつい、隣に呼びかけそうになる。一年で結局、なるとは三度も隣の席になった。そうでなくてもなぜか席はいつも近くて、話すたびに周りの男子からたまにからかわれたりしたが、もうそれもない。


 日の光に透ける、茶色い横髪を見ることも。




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