14
(腹、減った)
凍れる寒さに身を縮こめる12月。弁当を持ってくるのを忘れ机上に突っ伏す。その時点で三度目の席替えが行われていて、またとなりの席になったなるは昼のチャイムが鳴ると速やかに席を立った。
なるとも他愛ない、それでいてかけがえのない日々を過ごしていた訳だが、彼女が決まって昼になるとどこかへ席を立つその理由を俺はまだ知らなかった
ので
(…どこ行くんだ)
なんとなし。今にも鳴りそうな腹の根を自力で抑えて、彼女の後について行った。
あいつは別にどこかに弁当を捨ててるわけでも、一人便所飯をしているわけでもなかった
心配していたわけじゃない、ただ
「さっ…む!!!!!」
季節は12月、真冬である…ってこのくだりどこかでやらなかったっけ。吹き付ける北風に耳が凍り真っ赤になるのを身を縮めて耐え忍ぶと、屋上のど真ん中で座り込んでいたなるが気づいたようで、振り向いた。
「? おーあで、どうした」
「どうしたもこうしたもあるかぁ!おまっ…何してんの!寒いよ!」
「いや、弁当食ってる」
「見りゃわかるけど!行くなら食堂とか!他にいくらでもあるじゃんなんでこの時期に屋上!極寒じゃねーか!」
ギャンギャン両脇に手を挟み込んで上から騒ぎ立てる俺には涼しい顔で、なるはそうかな、とかいいながらも黙々と弁当を食している。
風が吹く度に揺れる色素の薄い茶髪、そこから覗く耳は赤くて、俺はなぜそうまでしてここにいるのかが甚だ疑問でならなかった。
「…まぁ、食堂とか混んでるしな」
「一人席くらいいくらでもあるだろ」
「うるさいの苦手なんだよ」
「教室で食えばいーじゃない!」
「一人で?」
なるがふいに、俺を見上げる。真っ直ぐな瞳を真正面から受け止めて、そのときようやく気付いた。
よくよく考えてみれば、なるが他の女子と戯れているところをみることはほとんどなかった。ごくたまに話していることはあったが、それこそ業務連絡的なことだったし、ただでさえ男っ気の強い彼女だ、ひょっとすると女子には度がキツすぎるのかもしれない。
「教室で一人くらいなら、外でここにいて感じる寒さの方が、よっぽどマシ」
そう言って可愛らしいキャラ弁を掲げるなるの隣に、俺はポケットに手を突っ込んだまましゃがみこんだ。