13
「じゃーな、初めてだろ期末試験。頑張れよ」
「…お兄ちゃん」
「?」
別れ際、呼び止められて振り向く。俯いていた妹は一瞬。逡巡を見せたが、すぐまたいつもの笑顔を向けてきた。
「…ううん。じゃ、またね」
面と向かって妹と話したのは、それが最期だった
原因は環境 あとそれ以外
「ただいまー」
「…おかえり、また夕凪と会ってたの?」
「…?そーだけど」
洗面所で手を洗うその後ろ、台所で夕食の仕度をしていた母の包丁の音が止まった。水の音が流れる。
「…友達と遊ぶならまだしも…あんたそろそろ大概にしときなさいよ」
「…は?あいつと会っていいっつーのはお袋たちが別れるときに家族でした約束だろ」
「それはそうだけど、頻繁すぎるわよ…何をそんなに話すことがあるの?…せめて回数減らしなさい」
「月一でごちゃごちゃ言われてもね」
「こんなこと言いたくないけど」
遮るように母の言葉が重なる。居間からでは暖簾で彼女の首から下しか伺えなかった。
「…こんなこと言いたくないけど…母さんがお父さんと別れた時点で、あんたと夕凪はもう家族じゃない、
、、、、
赤の他人なの。…家族じゃない人間と頻繁に会ってるなんて考えてみたらおかしいでしょう?だから」
「あいつと俺は兄妹だよ」
「…」
「そっちの都合で勝手に引き離されたこっちの気持ち。あんたら考えてことあんのかよ」
ややムキになって吐き出した本音に、慌てて口を噤む。だが気付いた時には既にもう遅かった。
「…ごめん」
「いいの。あんたが言うのは、いつも本当のことだから」
それきりまた包丁を鳴らす母親に背を向けて、弁解などはしなかった。
母親にそう言われてからは、妹にも事情を説明し電話で話をするようになった。それもお袋が決まっていない時を狙っていたため、お袋がパートから帰ってくる前の、俺と夕凪が下校してから夕方の、数十分。
外で連絡する手もあったんだろうが、変なことで親に心配をかけるのも嫌で無理に時間を作った。だがテニス部の妹は練習で帰宅も遅い上、俺も俺で帰宅部の割りにバイトがある日も多かったため、結局全てはなあなあに
月一、二ヶ月に一回、と徐々に。妹との連絡回数は減り、その術も忘れるのと同じよう。季節は夏を越え、秋を巡り、そして冬になった。