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「…なんだかおにぃイキイキしてる」
「えっ」
「なんかいいことあった?にやけ方がやらしい」
頬杖をついてぶくぶくとアイスコーヒーのストローを鳴らす妹は、つまらなさそうに吐き捨てた。
「ねーよ」
「あっ…わかった!誰かに告られたんでしょう!誰!誰!?」
「はぁ!?なんでそうなる…って、あー…」
「なにそれ!図星!?」
それまで死んだ目をしていた妹が、次の瞬間には瞳をキラキラ輝かせて身を乗り出すものだから、俺も座っていたソファの背もたれにのけぞった。
このとき俺がにやけていた(らしい)のは全く別件によるものだったが、思い返すと引っ掛かりがあったのだ。
『良かったら…付き合って欲しいんだけど…』
数日前の、帰りしなである。掃除で遅くなって、早く校舎を出ることばかり考えていた。その日は母親から遣いを頼まれていたので、突然呼び止められてそんなことを言われたときには頭が真っ白になった。
相手は、田嶋ゆりか。その頃既に高校入学してから半年は経過していたが、早くも学年で話題になっていた顔が可愛く、男遊びも激しいという女子生徒だ。
なぜ突然彼女が自分に的を絞ったのかがわからなかった。相手ならいくらでもいるだろう。面白半分か、所詮。考えは、あくまで悪天候にしか及ばず
『悪いけど』
『俺生理的にお前のこと受け付けないわ』
次の拍子には、そうとだけ。男遊びなら、他でやってくれ。そんな偏見から酷い言葉を突き出したと思う。
後になって思い返した時に、悪いことをしたかもしれないと気づいた
だがいい噂の絶えない彼女に関わりたくないと思ったのも事実だ
「え、じゃあ告白されたのにふったってこと!?」
「…」
「サイテー!それに、相手の子が可哀相!せっかくこんっ…なろくでなしの何かしらを見て勇気を出して告白してくれたのに!信じらんない」
「俺は見たことも話したこともない女に好かれてしかも告白してくる方が信じらんないね、
大体俺の何を好きになるっつーんだ、顔か?」
「それはないでしょ」
即答する妹の頬を思いっきりつねってやる。
「いっ…ひゃあい!はらひへよあほにぃ!!」
「そうだねー、俺がイケメンだったらこんな小憎らしい妹は出来なかったろうしな」
乱暴に指を離してやると、涙目になった妹にきっと睨みつけられた。