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「7年前のことは、悪かったよ。謝る、ごめん。
だが俺にも色々事情があったんだ」
「色々ってなんだよ」
と、そこで不意にあでの手が待ったをかけた。電話らしい。黒ボディのスマートフォンを取り出すと、通話ボタンを押して耳にあてる。
「や、どうも。はい、はい。あ、先ほどお家出られましたか、はー了解しました。えぇ、こっちは完璧ですよ。後は任せて下さい、じゃ」
簡単な会話で、通話は終わった。スマホを胸ポケットに収めると、あでは窓の外を見て立ち上がる。
「悪いな、俺今こう見えて仕事中なんだ。
今度ゆっくりメシでもデートでも付き合うから。その時また、じっくり聞くわ」
「ちょっ、待て。仕事ってなんだ!まだ話は終わってないぞ!」
思わずあでの服の裾を掴んで引き止めると、上からじっと見つめられる。すると、こいつは何か考えるように目線をぐるりと宙に泳がせ、にやりと口角を引き上げた。
昔からそうだ、あでは悪いことを企んだとき、こうやって笑う。
「わかったよ、じゃ…
ついてくる?」
***
越智博己17歳、明王大学附属高校2年、成績優秀運動神経中の上、特記事項有るとすれば
「年がら年中葬式みたいなツラしてる地味少年…て、なにこれ」
「見りゃわかんだろー とある男子高校生の調査事項だよ」
ファイルにまとめられた書類を見て聞く私をよそに、あでは片手に持った車の本を眺めていいなぁ俺も外車欲しいなぁとか次ボーナス出たら買い換えようかなぁ、だとか呟いている。
駅前にある商店街は、数ある高校の密集地にあることから学生通りになっていて、その並びに混在する本屋はかの有名な予備校"進台"の向かいにある。
ついてくるかと聞かれ引き下がる訳にも行かず付き添ったのが運の尽きだった、先程の喫茶店からこの場所に移ってざっと一時間は経過しているだけに、特にすることもなく立ち通しでくたびれた足はグラグラと揺れていた。
「それとこの本屋と、なんの関係があるんだよ」
「このわからず屋。調査だっつってんだろ。
依頼があったんだ、その高校生の父親からな。予備校の講師とデキてるとかで受験に支障を来すからって心配なんだと」