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「ところでお兄ちゃん、彼女は出来た?」
「出来るか。まだ入学して数ヶ月だぞ」
「…はっ くだらない そんなんで高校生かっつの」
「…上等だコラそこまで言うならお前、彼氏出来たんだろうな」
「出来たよ」
「エッ」
「ちょうど今外にいるの。呼んで来るね」
まさかの急展開に完全にどぎまぎしてしまう。手持ち無沙汰に手は宙を仰いだり横髪に触れて見たり。そんなことをしてる間にも妹は彼を連れてきた。
「同じテニス部の先輩の冴木さん。
かっこいいでしょ」
「…は、初めまして」
黒髪短髪で鼻筋の通った面持ちだった。今時見ない常識人ぽい好青年系の、二枚目、という言葉がまさしく当てはまりそうな。
初めまして、との一言に何度となくまばたきを繰り返したのち、小さくどうも、と応える。完全に妹の悪ノリに付き合わせられたらしい冴木は居た堪れなさそうで、その隣でどこか誇らしげな妹と言ったらもう。
「…と、とりあえず俺は黙って殴ればいいの?」
「なんで!?」
考えあぐねた結果出てきた言葉はそんなものだった。
(…侮れねぇなあいつ)
正直、動揺した。
ちょっと前まで人の後ろ追いかけて来て、からかっていじめてやればびーびー泣いてた妹が、彼氏が出来たと兄貴に報告するまでに成長した。
子どもだ子どもだと思っていた妹も、年頃の女になっているということだ。しかしそれも兄である俺からしたらずっとガキでしかない。
(…けど中一で彼氏て)
しかもまだ春先。あいつ結構…とかなんとか。ブツブツ呟いていたと思う。
その日は新聞配達の仕事を終え、自転車を押しながら校門をくぐっていた。その時だ。駐輪場の、脇。人気のないところから怒声が響いて飛び退いたのは。
「ふざっけんなよこのクソ女!!二股かけやがって」
「浮気とかマジあり得ねーんだけど」