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地元校というだけあって見知った面子が並ぶ中、全くもって面識がない奴には何と無く関心が行く。
それも、高校デビューか何かで地味だった奴が髪を染めたり、バカみたいに騒ぐ女子たちとは群れず常に一人で窓際に座っているなるは変に悪目立ちしていた気すらする。
陰キャラ、というわけでもない。常に一人でいると思えば、たまに男子と普通に話をしていたりする。それも頻度としては少なかったが、彼女が俺の人間観察の対象になるのはそう理由もいらなかった。
いつも仏頂面なこいつは。どんな時に、どんな風に笑うんだろう。ただそんなふうに、漠然と。
「あ」
ある日のことだ。古典の教科書をうっかりして家に忘れた。
隣のクラスに借りに行ってもいいが、返すのが面倒くさい。
何の気なしに隣を見る。成滝は机に突っ伏したまますうすうと寝息を立てていた。こいつ一限目の数学ん時も爆睡だった気がするんだが。寝てるなら教科書かしてくんない。
「…な、」
ちょい、と肩に触れてみる。無反応。もう一度とん、と肩に手を置き教科書かして、と聞くと、黙って教科書を寄越した。お前もう授業受ける気ないのな。
サンキュー、と一声。聞いてんだか聞いてないんだかは定かではないが、裏表見直してから。ふいにそこに目がいった。
[成滝結那]
「…ゆうなっていうの下の名前」
「Σ 」
「妹と同じ名前」
「…ぁ…」
「漢字は違うけど…って、」
がば、と上体を起こした相手を見た時、そこで目を疑った。成滝の顔面が真っ赤だったのだ。何が何だかわからない俺はただただ茫然とする。俺今そんなすごいこといったか。つーか照れてるのか。
何を差し置いてもとりあえず。
「…可愛いな」
「Σ 何が!?」
「(喋った) 下の名前嫌いなの?」
「…嫌いではない、がっ、他人に呼ばれるのは抵抗が、」
「えー可愛いのに結那」
「結那って言うな!!!」
他のクラスメイトの視線が集中するほどぎゃあぎゃあ騒いで、結局ぱっちり目が覚めたなるにその後教科書を借りることは出来なくなってしまったが、俺はそのときはそれで上機嫌だった。
これがなると俺の初めて交わした会話だったからだろう。