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「今日は…ありがとうね、お母さん達のためにここに連れてきてくれて」
運転したのは親父だけどね、との一声に家族揃って笑う。吹き荒ぶ海風が次第になだらかになった頃、一息ついた母がおずおずと切り出した。
「…それで…慎と夕凪がどっちについて行くかなんだけど…」
「話し合いならもう済んでる」
「え?」
妹と顔を見合わせる。妹は。夕凪はにこりと笑った。
「二人とも目閉じてっ」
「…?」
言われるがまま瞼を閉じる父、そして母。二人をしかと確認すると、俺と妹は、事前に決めていた立ち位置についた。
「…目開けて」
母の隣に俺、父の隣に夕凪が並び、両親はハッとしたようにお互いを見た。そっぽを向く俺に対し、妹は嬉しそうだ。
「決まりだね」
せーの。
『お父さん』
ハッとして妹が俺を見る。
『なんで言わないのー!?』
『おっけー決まりだねんじゃ俺お袋』
『あり得ないあり得ない!やり直し!!』
『やり直しても一回目みたくはならないよ』
ぐっ、と喉を引っ込める妹にはははと笑って見せる。少なくとも3年早く生きてるこれが俺とお前の差だ、とも。
『…おにぃってそゆとこあるよね』
『ハイ?』
『わざとでしょ?私が言わなかった方に元からつくつもりだったんだ』
『なんとなく予想はしてたよ。たぶんお前のことだから俺と親父が一緒になったら誰が家事すんだとか、そんなこと気にして親父についたんだろ』
『そこまでわかってたんなら言ってよー!』
『念のため、念のため』
うぎーと歯を食いしばって悔しがる妹のでこを突いてやる。仰け反った妹は反動で後ろにすっ転んだ。
『…私がお父さん支えるから。お兄ちゃんはお母さんのこと頼んだよ』『…お前ってたまに偉そうだよな』
『おにぃに似たのかな』
『さーて出よっと』
『ちょちょちょ!引っ張って!起き上がれないんだってばお兄ちゃん!お兄様!!』…
その後何度か設けられた話し合いの末、母親と俺は都内の小さなマンションに引っ越し、結局家族4人が住んでいた家は父親と妹がそのまま住むことになった。
それまで多分無理して平気ぶっていた妹もいざ「その日」が来ると堪えきれなかったらしい、堰を切ったように泣くものだから、俺は逆に笑った。