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「場違いなんかじゃないよーちゃんと昔来た海じゃん。…さむっ」
「寒いわな!だって冬だもの!こんな極寒の時期に時化てる海にくるやつがどこにいるよ誰もいないじゃん波の打ち方火サスじゃん!崖っぷちに船◯いそうじゃん」
「わかってないなおにぃはー!冬に来る海だからこそ粋なんでしょ、それによくあるじゃんカップルが長い木の枝見つけて砂浜にLOVEって書くやつ」
「カラオケのPV!?」
寒さを紛らわすためにも叫び続ける兄妹の背後で、ぷっと父親が噴き出し、同時に母親の笑い声が続く。
ばつの悪い顔で振り向く俺のそばで、妹は満面の笑みで微笑んだ。
少し歩いてくる、との両親の言葉には俺も妹も顔を見合わせた。まさか、そんな雰囲気になるとは思いもよらなかったからだ。
「ね、ね、なんかいい雰囲気じゃなあい?」
「ねーよ」
とはいえ修復の見込みなどないと確信する俺とは裏腹に、単純な妹はそれしきのことでまた淡い期待を抱いていたが。
「…ね、私どっちについて行くか決めたよ」
「へえ」
「お兄ちゃんは」
「…なんとなく」
「じゃあせーので言おう」
「なんで?言う必要なくね」
「だって後でついて行きたい方が片方に偏ったらどっちの意見ももらえなかった方がかわいそうじゃん!」
俺は、目を丸くした。正直、度肝を抜かれた。今になって気づかされた。そうか、俺と妹が今後一緒にいるという選択肢は、そもそもなかったのか。
両親が離婚すると決まった時、大して驚かなかった理由。そもそも両親にべったりな妹と違って淡白な俺は昔から両親の二人ともに懐くことはほとんどなかった。その代わり「兄」という役割が妹の面倒を見ることと教わってきたから、家族の誰よりも妹のそばにいたと言っても過言ではないだろう。
そんな妹だからこそ、心の何処かで俺についてくるという自信があった。…でもそうしなかった。
あの時、両親が離婚すると決まって妹があれほど落胆した想いの中には、俺と離別することも含まれていたのだ。そんなことに今になって気付いた。
…結局懐いていたのは、どっちだったのだろう。
妹の。真剣な眼差しは頼りない兄の心を突き動かすには十分だった。灯台の中。座り込む椅子から冷気がこみ上げてくる。
「…わかったよ」
「じゃ、言うね。タイミングずらしちゃだめだよ」
「へいへい」
「せーの」