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「…そんなの納得出来ないよ」
しょんぼりと肩を落とす妹に一瞥をくれて、あくび交じりに席を立つ。
「そういうわけでお兄ちゃんは受験勉強があるのでおいとまします」
「…何さ、冷酷人間!おにぃはなんとも思わないわけ!」
「あの二人の険悪な雰囲気感じ取って気まずかったのがやっと終わりになると思ったら清々するね。被害者だよ寧ろ。俺もお前も」
我ながら酷い言い分だ、とは思った。だが俺だって知っている。食卓を囲う家族の団欒が"他"の形とは異なっていたこと。
無自覚なのかもしれないが、それを修復するために妹が苦心していたのも。
あの二人のために小学生の妹が気を遣うのは間違っている。家族のため、そう思うのなら尚更。
「…もうどうにもならないんだね」
「…」
「…お兄ちゃんはもうどっちについて行くか決めてるの?」
「…いや、特には」
「そうだいいこと思い付いた!」
「何」
「家族旅行に行こう!ホラ!昔みんなで行ったじゃん!あれっきり旅行なんて行ってなかったら記念に!」
「記念て何の…てか今更何でそんな」
「家族全員で過ごす最後の時間だよ。とっておきのものにしたいじゃん。ね、お願い!私お母さん説得するから、お兄ちゃんはお父さんに伝えて!」
「あのなぁ、」
「お願い~」
結局その時はその場の雰囲気と、いつもの妹の押しの強さに根負けして押し切られてしまったのだ。
父親にそのことを伝えると思ったよりあっさり承諾し、妹曰く、母親は割と最後の方まで首を縦に振らなかったらしいが最後には半ば無理やりうんと言わせるに至った。
俺が8歳、妹が5歳のとき。今となってはもうよく覚えていないが、家族旅行に出掛けたことがある。
そのときはまだ割と両親も仲が良く、何を思い立ってか海へ行こうという話になった。それがあとあと両親の初デートの場所だとか、結婚を誓い合った場所だとか知ってからは興醒めしていたのだが、また来よう、と家族で約束したっきり、結局それが最初で最後の家族旅行になってしまっていた。
ーーーでも、何故今それなのか
「…場違いだろ」
「ひゃー海!!寒ーい!!しけてるーー(笑)」
「場違いだろう!!」
極寒の大地。というか季節は真冬。1月である。何を思って真冬の海に足を運ぶものがいるのか。吹きすさぶ寒気に舌打ちすると、砂浜を走りまくる妹を怒鳴りつけた。