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「で?」
「え?」
「俺になんか用?」
「…は?」
お互いに見合ったまま話が噛み合わず、たっぷり10秒以上は固まっていた。その間にテーブル脇をウェイトレスが通り過ぎ、あでの煙草の粉塵がパラパラと宙を舞う。
「…お前私に何か言うことがあるんじゃないのか」
「久しぶり」
「じゃねーよ!!」
反射的に発した叫声にサ店内にいるしとやかな客の視線が集まり、肩を窄めた。そもそもこんな落ち着いた店なんかで出来る話をしたかったんじゃないのに、こいつったら柄にも無く格好つけるから。
そこで待てよと眉をひそめる。いや、もしやこいつ、私に畳み掛けられるのを防ぐ為にこんな店に入ったのか。だとしたら、相当、たち悪い。
私は決意する。屈するものか、この日の為に費やした労力と時間を顧みれば、この程度の店で一瞬他人の恥を買うくらい、どうってことはない。
気を引き締めるために、奥歯を噛み締めて、鼻から息を噴き出す。あでは相変わらず、窓の外を見たまま素知らぬ顔だった。
「回りくどい言い方しても伝わらないようだから単刀直入に聞く」
「どうぞ」
「あで、お前なんで7年前急にいなくなったんだ」
窓の外に向いていた視線がこっちに向く。指先が煙草の灰をトンと灰皿に落とした。
「…心配したんだぞ。翌日学校行っても突然辞めてるわ家に行っても引越した後だわ、せめて連絡の一つくらい寄越してくれたって良かっただろ…そんでやっと見つかったと思ったらこれだ、何だよお前!
ましてやあんなこと言っといてさ!」
「あんなこと?」
「お前が言ったんだろ、"俺がお前を守る"って!」
「……ああ、それね」
一瞬で閃いて、あではプーッと噴き出した。そして突然けたけたと笑い出し、目に涙まで浮かべている。
「何がおかしい!」
「いや、失礼。ってか、お前そんなのまだ覚えてたの?そんで、気になって俺のことずっと探してた?」
「そっそうだよ!悪いか」
「いや、可愛いね」
「、かわっ…!?」
前に乗り出し気味だった半身が、意表を突かれて思い切り仰け反る。相変わらずのペースのままあでは、にやにやと面白そうに私を見たのち、また視線を窓の外に移した。