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「………お前、あんときびーびー泣いてさ、顔真っ赤に晴らして涙か鼻水かわからんがすっげー汚かった」
「汚っ…!し、しょうがないだろ怖かったんだよ!!」
「知ってる。震えてたもんな」
あでの足が止まる。どこまでも続く土手道、風の音。秋の、冷たい空気が頬をさらって、遠くの方で少年クラブの一貫だろうか、サッカーをする子どもたちの姿が見えた。
「普段、他人ににこりともしない奴がちょっとつつけば慕ってくるようになった。それこそしょうもないことで笑ったり、バカやったり。なるがいつでも俺にバカ正直だったから。あの時。
はじめて見た。お前が引くほど泣いてんの見たら…あーこいつ俺が守ってやんなきゃな、て、思ったんだよ」
「……」
なんだ、それ。
そんなの。一言も言わなかったじゃないか。今までどれだけ聞いたって、答えてくれなかったじゃないか。お前は。あでは、いつもはぐらかすばっかりで。
結局私の前からいなくなったじゃないか。
私の気持ちも
聞かないで
ちらと私を一瞥し、また歩みを進めるあで。やがて遠くなって行くその背中を、立ち止まったまま私は見据える。
高草木に出会って間もない頃、この件を正直に打ち上げたことがある。そのときあいつはこういった。
"…よくそれで今、男性恐怖症とかじゃないでいられるね"
考えたことがある。確かに言われてみれば、どうしてかと。あの日。7年前、田嶋に騙されて酷い仕打ちを受けた時。あの瞬間、私は確かに震え、恐怖し、人間不信になってしまった。ーーでも裏を返せば、あの時確かに感じた恐怖を、なぜ今日まで引き摺らずにいれたのか?
怖いと感じた。無理だとも。拒み、否定し蔑ろにして一度は放棄したそれらを。諦めようとしなかったのは。
あの存在と、お前の言葉があったからだ。
「……あで」
「…」
「あで」
「ん」
これで最期にしよう
問いかけて
答えが返ってこないなら
"俺が言わないのはお前が追いかけてくるのを期待してるからだ"
"胸貸そうか?"
"やっぱ好きだ、と思って"
だけどもし
届くなら、