19
「阿出野」
「なに」
「…この際だからこの場を借りてお前に言いたいことが山程ある」
「何それ改まって。は…ついに愛の告白か!?」
「ちっちがうわバカ!」
慌ててムキになって突っ込む私を、あでは完全に面白がっている。でなければニヤニヤ顔でこっちを眺めてくることもないはずだ。だめだ、こいつのペースに飲まれては。あくまでこのシチュエーションを、優勢に持ち込まなければ。
「…で、何よ」
「その前に一つ約束してくれ。この観覧車にいる間は、お前は私の質問には必ず答えると」
「尋問ですかそれは」
「はぐらかすな」
「内容にもよる」
「あのなぁっ…」
頬杖をついて窓の外を見ていたあでが、ちらと私に目を向ける。必死こいて自分にがっついてくるのがさぞ面白いのか気分がいいのか。真剣に顔を顰める私の目と、その冷ややかな目が数秒見つめあった。
そして。
「…」
「な、なんだよ」
「お前今日化粧してる?」
「えっ今更!?」
「はぁー、道理でなんかケバいと」
「ケバっ…」
盥が頭に落ちてくる衝撃、というのは経験したことがないが、おそらく今まさに私の頭上に盥が落下し、目の前が真っ暗になった。
と同時に、この男に翻弄されている自分が歯痒いとか、恥ずかしいとかそういう思いがない交ぜになって頭が沸騰…挙句、相手の胸ぐらを鷲掴む。
「お前はぁあっ!」
「わかったよ 」
「ぁあ!?」
「約束する。お前の質問には全て答えてやる、この中にいる間は。…でも俺にも立場ってもんがある。黙秘権のカードくらいは持たせてくれよ」
私に胸ぐらを掴まれたまま、無抵抗で、あでは情けない顔で私を見た。…卑怯なやつだ。あではそう、昔から。そういう態度をとられて、私が突っ張れないとわかっていて、そんな技を覚えたのだろう。
「…約束、な」
「了解」
定位置に居直ると、あでは腕組みをして私を見下ろしてくる。それが受け身側の態度か、とまた言いかけたが、気を取り直してうほんと咳払いを一つ
私は顔を上げた
「…7年前、
「黙秘権を主張する」
「いきなりかよ!!?てかまだ全部言ってねぇ!」