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「…な、もういんじゃないのお兄ちゃん。なんかあの彼氏見た目の割に案外悪い奴でもなさそうよ?一度三人で話し合って見たら」
「無理!だろ!断固拒否!なんでよりにもよってあんな…それも7つも年上の!この際百歩譲って年は見逃す!けどあの身なりはないだろ絶対に!」
「無個性よりいんじゃないの」
「人のことだからそんなこと言えるんだ!自分の家族に置き換えてみろっつーかアンタその感じだと女兄弟いないだろ」
掴みかかる勢いで隣から畳み掛ける拓馬に対し、正面を向いたままそれをもろともせずに鼻にティッシュをあてがう阿出野。どうやらまだ血は止まらない。多分そろそろ止まるんだろうが、口の中は鉄臭く、鼻腔は血が固まったことでカピカピして気になった。
「俺妹いるよ」
「えっ、じゃー話速いじゃん。兄としてそういう気持ちわかんだろ?妹がさ、変な男連れて来た時の複雑な心境とかそういう、」
「もう死んだけど」
「は?」
あまりにあっさりとした言葉だった。拓馬がその意味を反芻する間も無く、いつの間にか血が止まったらしい阿出野は拓馬に微笑みかける。
残酷なほど、優しい瞳で。
「親父に殺されたんだ」
「お待たせ」
「おかえり」
「あれ、もう止まってんじゃん鼻血」
「さすがにまだ出てたら危険だわ。つーか煙草煙草~ヤニ不足」
「ほらよ。お前ちょっとは控えたら?肺癌になってからじゃ遅いんだからな」
「何、心配してくれてんの。やっさし~」
「だあもうウザい!寄るな!」
馴れ馴れしく寄ってくるあでを片手で跳ね除けると、その合間からベンチに腰掛ける拓馬が見えた。缶コーヒーを持ち替えて弾みをつける。
「拓馬くん。珈琲」
「…え、Σあっ」
軽く投げたつもりの缶コーヒーは、狙ったように拓馬の額にガツンと当たった。