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「…鼻血って上向くんだっけ下向いたら治るんだっけ」
「下 ってかあで、お前って喧嘩弱いんだな知らなかったわ。だっさ」
場所を移動して、人気アトラクションが密集するエリアから過ごし離れた人のまばらなベンチ。そこに腰掛け鼻を押さえるあでのティッシュは、切なくもじわりと赤に染まっている。
「あんな高速ストレートかまされたら誰だって顔面から受けるわ!てかあれ完全にこいつの調査ミスだろ!」
「悪かった、これはさすがに俺の独断と偏見が生み出したケアレスミスだ…そういえば最近あいつ最近ボクシングのジム通い出したとかちゆが言ってたような言ってなかったような」
「「情報ちゃっかり入手してんじゃねーか!!」」
ベンチの隅でてへぺろポーズをする拓馬に二人してツッコミを入れる。素性こそバレない内に大移動(という名の素早い敵前逃亡)をしたから良かったものの、さっきので顔が割れたかもしれない。
あんな大袈裟な手芝居までうって何の成果も得られなかったらどうしようか、というか既に三戦中三戦黒星な時点でもう見込みない気すらする。
「高草木連れてこれば良かったかなぁ…」
「…へーへー悪うござんしたねどーせあいつの方が使えるよ謝りゃいんだろどーもすいやせんでした」
「拗ねるなって。冷やした方がいいんだろうな、何か飲み物買ってくる。何がいい」
「珈琲」
「オレもそれで」
「あと煙草切れたからついでに買ってきて」
「なんでだよ。てかテーマパーク内にタバコの自販なんかないよ」
「あったよさっき見たもん。マルボロ赤ねよろしく~」
「…ったく」
人がちょっと気遣ったらこれだからな。小さく吐息をついて、でもやっぱり自分から誘っただけに大きく出る訳にも行かず、仕方なし首を縦に振ると、拓馬とあでを残し私はその場を離れた。
「…あぁ、ったくどーすればあの二人の仲を引き裂くことが出来るんだ~」
ベンチの端っこに座って坊主頭をバリバリと掻き毟る拓馬は相当切羽詰まっている様子だ。そろそろ止まっただろうか、とか鼻血に夢中の阿出野もそれにはさすがに飽きれてため息をついた。