15
「こーくんお腹空かない?なんか食べよっか」
「お、いーねー何にする」
「確かこの近くにチュリトスのおいしいお店が…きゃっ」
「 い、いっ… た、あーーーーーーい 」
現場は舞台、通行人は観客。そう思って演技しろ、との拓馬の要望あって大袈裟に芝居をうつ。
ふらついた拍子に千幸の肩にぶつかったのは我ながら迫真だった、彼女は私を見るなり目をパチクリさせている。
「…す、すいません」
「ちょっとおー…ど、どおしてくれんの?今ので足挫いたんですけどー…ぁ、歩けなーい」
「…え、でも、肩ぶつかっただけだし…」
「結那ーどーしたー」
「あーちょっときーてよあで…じゃない慎也ー」
ピンヒールを片手に、背後からやって来たあでにわざとらしく寄りかかって見せる。たどたどしい言葉遣いの私とは裏腹慣れたそぶりでさらりと役になり切るところこいつ本物だな、なんて考えもよそに、あでは私の足首を見るなり「あー挫いてるねこれ完全挫いてるわこれ」とか難癖をつけ始める。いいがかりも甚だしいが、こういう当たり屋は最近でもごく稀である。
「…どーしてくれんの?うちの彼女さー足やっちゃったみたいなんだけど。治療費と…今日分の慰謝料。ざっと10万くらいかなぁ。払える?つか払ってもらわなきゃ困るけどね」
「…は、いやそんなこと急に言われても無理だし」
「えーお金ないのー?困ったなーそれじゃ彼女に払ってもらうしかないかなー」
「え、は、ちょっと」
「やっやだ離してください!」
派手なコートにサングラスをした男女が難癖つけてカップルの彼女を引っぺがす。さながら時代劇の地上げ屋だ。あでが長身なこともあり威圧感は二割増しで、千幸を無理やり奪われたことに金髪の大学生は完全に狼狽えている。
「こ、こーくん…!」
「ち…千幸を離せ」
「金払ってくれたらね」
「払うわけねーだろ」
「じゃー力ずくで奪ってみなさいよ」
「望むところだッ!!」
私たちの策略にまんまと乗っかり、金髪大学生の拳は、無遠慮に。
空を裂いた。
「ーーーこーくん大丈夫っ!?」
「…大丈夫大丈夫」
「でも、血が出てる…」
「切れただけだよ。ヘーキ。それよりあっちの方が…」
そう言って、ちらと千幸カップルが見る方には長駆のサングラスコートの男。
が、
鼻血を出して地面に仰向けに昇天している姿があった。