13
「ーーーあで、」
上の方の暗がりに声をかけた瞬間、硝子が割れるような騒音が耳を劈いた。同時に女の不気味な呻き声がその場に響き渡る。
「え、なんっ」
「無理」
「Σ!?」
がば、と後ろから何者かに抱き着かれこれも演出か?と思うも、その割には背が高く汗だくになって震える手の感覚に一瞬にして我に返る。
ーーーいや、お前かよ!
「ぁ、ああああで!!離れろっ」
「無理無理無理無理やっぱりほんと無理出口!出口出口出口」
「わかっわかったから離、はなせってば…!」
ぎゅううう、と音がなるほど背中から抱き着かれその密着度に身体中が熱くなる。だめだ。近い、近すぎる。つーかだから、何故あでに触られた時だけこんな心臓が痛くなる!
「あああもうちくしょう…!!!」
多分、暗がりの中を色んな幽霊演出が施されていただろうに、その時の私はそれどころの話ではなく、とりあえず違う意味で速く出口へ、と決められたルートをひた走った。
その間千幸カップルの偵察が出来ていなかったのは言うまでもないだろう。
「お疲れさまでした~「怨嗟の間」いかがでしたか?厄除けに塩ふっときますね~」
外の太陽の明るさに思わず目を背ける。色んな意味で一気に老けた私、(ついでにあで)に係員は謎の塩を撒き、ビデオカメラを渡すとそれと引き換えに満面の笑みで写真を渡された。
「…え、なんですかこの写真」
「あ、実はこのビデオカメラ~お客様が録画してるように見えてる映像は元々カメラに内臓されてるVTRで、実際はお客様に自分たちの映像を撮ってもらってるんですよ!
カップルで来られている方には一番お二人の密着度が高かった瞬間にサーモグラフィのセンサーが反応してシャッターを切る仕組みになってるんです!お二人の密着度は90%ですね♡」
裏側にして渡された写真を冷や汗ダラダラで表に返してみる。まさかな、だって暗闇だったし、そんな絶対、映るわけ。
私の淡い期待とは裏腹、その写真にはばっちりーーー…
あでが私に抱き付いた瞬間が映し出されていた。
「…ッ!ッ!!ーー!!!」
勢い余ってビリビリと写真を引き裂く。すると斜め上から落ち着いた声が。
「あーあ。破るなよもったいない」
「お前は外出たら一気に元気だな!」