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「…無理して来なくてよかったのに」
「 う る さい 」
隣を平気な素振りで(震え声だし全然出来ていないけど)歩くあでに言うと、素っ気ない声で一蹴された。
お化け屋敷「怨嗟の間」のシナリオは、謎の連続変死事件が起こったとある一家を舞台に、取材に来た者(ここでいう私たち)が怪奇現象に巻き込まれていくというものだ。入り口では懐中電灯付属のビデオカメラを持たされ、どれだけお化け屋敷内の映像が撮れていたかで出口でのイベントが変わるらしい(ビデオカメラも本物で本格的)。
あでがあんな状態なので私がビデオカメラを持ち、最近のお化け屋敷はハイテクだな、とか考えながら暗い家の中を歩く。お化けどころか、雰囲気は暗がりで何も見えない状態だ。
隣にいる、あでの顔さえ。
「…なんだよ、これじゃあ千幸どころか自分たちの把握すら儘ならないじゃないか。なあ」
「…」
「な、あで」
「…」
「怖いのか?」
冗談交じりでそう聞いて見たら足を蹴られた。どこまでも乱暴なやつ。同時に、疑問が確信に変わる。
「何怒ってんだよ」
「…別に怒ってねーよ。ただお前が“あんなこと”もこなせるようになったことに驚きが隠しきれないだけ」
“あんなこと”…紛れもない、さっきの逆ナン(?)のことだろう。
「仕方ないだろあれはっ…お前が駄々こねるから」
「そうだね~お陰でお前が普段どんな生活してきたかわかったよ~女って得だよなーちょっとのことで大変身すんだもんアレで毎回男引っ掛けてたってわけだ」
「はっ…はあ!?私が自分から男に声をかけたのは後にも先にもさっきのが初めてだ!」
「当然のようにああいうことするといつもしてるみたいに言われんだよ」
頭上から降ってくる舌打ちには疑問符で対抗し、と言うかこの男のみみっちさに唖然としたところで、怒りも通り越して呆れてきた。
そしてふつふつと込み上げてさしたのは魔ってやつで
なんとなく
「…はっはーん…さてはお前妬いてんの」
「…」
…いや、そこでなぜ黙る。