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もはや言うまでもないが、この男、あでは昔っから幽霊とかお化けの類が大の苦手らしい。それが何故かは知らないが、こういうものはその存在を信じる信じないとかの問題であって、それ以上の克服法はないのだろう。
「そもそもお化け屋敷に入る行為自体で彼氏のヘタレっぷりは保証されるんだから俺らが行く必要ないじゃん」
「目で見て確認する必要があるだろ!それで何食わぬ顔で出て来たとき私たちの意味がなくなる!そもそも仕事だ」
「俺今日OFFだし!なる一人で行って来い」
「女が一人で入ったら悪目立ちするっつってんだよ!!」
「悪目立ちしてんの今のお前らだよ!バレるから声落とせっ」
拓馬からの一発を二人揃ってくらい、後頭部を抑えて蹲る。ちらとあでを見ても、一度あった目はやはりしらっと逸らされた。…この男は、本当に、全く。
「…わかったもういい。私は適当に通行人の男を引っ掛けてお化け屋敷に入る。あではここで見張っててくれ」
「探偵さん、そんなことできんの?」
「生憎今日の私は悲しくも男受けがいいらしい」
あでと待ち合わせしていたとき数多の男性に声をかけられたのがしかりだ。彩女さんの究極デートコーデとか普段くしも通さない髪とかに気合いを入れてる分、幾分普段よりは自分にも自信がある。
「…何が男受けだ。所詮お前はお前だよ」
「まぁ見てろ」
あでの言葉にフンと鼻を鳴らすと、彼らを離れて一歩踏み出す。お化け屋敷の看板の近くへいき、おどろおどろしいそのパネルを見上げる。適当に唇に手を添えていると、肩に手を置かれた。
「きみ。可愛いね。彼氏とはぐれたの?俺が一緒に探してあげようか」
「…」
あでと拓馬の方へ振り向き、べーっと舌を出す。ざまあみろ。そしてあで、お前は一生そこで震えてろ。
男の言葉に適当に口裏を合わせて、お化け屋敷の列に並ぶ。この分なら回転が速いからさっさと入れそうだ。
ふと、腰の辺りに感覚があった。男の手だ。見上げると、男は嬉しそうに微笑んでいる。
「どこ見てるの?話しようよ」
「…いや、まぁ…」
頼む、気色悪いからその手を離せ。苦笑いしながらその手をさりげに解こうとしたら、ぐいと引き寄せられた。
「ちょっ…」
「 や っ ぱ り 俺 が 行 く 」
見上げた先には、私と男の間から割って入って来たあでの仏頂面があった。