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そう、私は昔から絶叫マシンという類が大の苦手だ。それも音とか雰囲気が怖いから苦手な訳じゃないから尚更たちが悪い。何故ならその寸前まで自分に自覚がないからだ。(忘れなければいいだけ)
そもそもあんな高速で上って降りてを繰り返すアトラクションの何が面白いんだ。スリリングだのなんだのって、そんなので喜ぶのはドMだけだろう。そして何より
「あの独特の浮遊感…うえぇ」
「吐いちゃえ吐いちゃえ。楽になるぞ」
蹲ってえずく私、その背中をさするあで、その様子を見ながら拓馬くんは深いため息をついて盛大に白旗を挙げた。
「話になんねーよ!次だ次っ!」
「こーくん、次ここ入ろー♡お化け屋敷!このアトラクション最近出来たばっかで、入り口から超~~~怖いんだって!しかもしかも、最後の間で心霊映像なんかもほんとに撮れちゃったりしてる本物の心霊スポットらしいよ」
「へ、へー…」
“怨嗟の間”とおどろおどろしい字で書かれたお化け屋敷の立て看板から二人を盗み見る。千幸の言葉を聞いてまたもや青筋を立たせている金髪の姿はここから見ていても一目瞭然だ。
「どこまでヘタレなんだあいつ」
「あんたがそれを言うな。俺のデータによるとあのクソ馬鹿は絶叫マシンに並ぶ幽霊嫌いらしい。千幸が言ってた通りここはガチモンだ。ここらでも有名なお化け屋敷に身をよじり泣き叫ぶ男の姿見たら、さすがのちゆでも呆れるだろう」
「だといいんだけど」
「つーわけで、今度こそちゃんとしてくれよ?まさか探偵さん。幽霊が怖いとか言わないよな?」
「いや、私は平気だけどさ」
先ほどまで隣にいたはずの人間が見当たらないことに気付き辺りを見回すと、遠くのベンチの傍で不自然に蹲っているスーツの男が見えた。あいつ。
「…慎ちゃ~ん?」
「俺は椅子俺は椅子俺は椅子俺は椅子」
「何自己暗示してんだよ!」
べし、と頭を弾くと思った以上にいい音がした。それと同時にクワッとあでが顔をあげる。
「無理だわ!俺ほんとあーいうの無理なんだって!お前だって知ってんだろ」
「知ってるけど今これを乗り越えたら一つ苦手克服出来るだろ!これを機にお前も男になれ」
「ならん!俺今の自分で十分満足してるからいいです」
「今度はあんたかよ!?」