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「うわっ」
「きゃ…危なかったぁ~こーくん大丈夫?」
「お、おう大丈…ってアレ」
便所にしけこもうとした所を気がついたらコースターの座席に着席していたのだ。混乱する金髪をよそに、私とあでは彼女らの真後ろの座席に乗り込む。
敵前逃亡しようとしたのが運の尽きだ。彼女に正直に告げればいいものを、カッコつけて隠そうとしたからこんなことになった。
7つも上の大学生、その頼りない悲鳴を聞いたとき千幸ちゃんだって夢から覚めることだろう。
「…なんかこーくん顔色悪いよ大丈夫?」
「…だ。大丈夫大丈夫」
小刻みな震えは真後ろにいる私からでも確認出来るほどだ。こうもあからさまだと涙とか飛んできそうでこっちが不安になる。
そこへアトラクションと合わせたコスチュームを着た女性がマイクを持って横から顔を出す。
《みなさん、係員の指示に従って、しっかりベルトを締めて下さい。日頃の恨み辛み、叫んで発散しちゃいましょう!
それでは快適な空の旅へ…レッツシャウト♡》
「…なる、一つ言っていい」
あでが正面を向いたままぽそりと呟く。
「何」
「…お前絶叫系苦手じゃなかったっけ」
「…忘れてた」
以下、省略。
「っあー!もうすっ…ごいエキサイトしちゃった!叫んだらスッキリするね!はー!♡」
「あー俺もマジ楽しかったー!正直俺絶叫苦手だったんだけど、乗って良かったわ!食わず嫌いって損なんだな!」
「そうだよ!てかこーくん苦手なら言ってくれれば良かったのにぃ」
「ちゆが行くのに俺が行かない訳には行かないだろ?それにお前のお陰で克服出来たしな」
「もう…こーくん大好き♡」
きゃいきゃい言いながら次のアトラクションへと向かっていく千幸カップル、それを茂みから見送る拓真。
「…どうしてこうなった」
「…吐く…吐く…」
「あいあいわかったから俺の背中で吐くなよ頼むから」
「無理…無理…」
「どうしてこうなった!?」
千幸カップル移動後しばらく、後ろからあでにおんぶされて連行されてきた私を見るや否や千幸兄は絶叫する。それはそうだ。でもこれは致し方ない。
「探偵さん!なんであんたがグロッキーになってんだよ!?」
「なるは昔から絶叫乗ると酔うんだよ、そういや学生時代も遠足でこいつ延々回るブランコ乗ってたわ」
「テーマパークナメてんのか!」