表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
RUSH  作者: 或田いち
FILE1.男と女と犬と猫。
10/201

3


「なんか用」

「うわっ!」


 そのままのペースで後を付けようと足を緩めなかっただけに、曲がった先で"対象"が視界いっぱいに広がると、つい大袈裟にのけぞってしまった。

 阿出野は、…あでは、とうに気付いていたらしい、腕組みをして壁に右肩を寄せたまま悠々と此方を見下ろしている。


 真っ正面から改めてその顔を見るのは久しぶりだった。月日が経っただけに、顔付きが違う。骨格は以前よりくっきりし、わりかし綺麗めに刈られていた短髪の頭は、仕事スタイルなのか後ろにかきあげていた。


 懐かしさに、不覚にも涙が出そうになる。


「さっきからコソコソと、頂けないねぇ。どこのネズミだ?」


 無論、そんな「私」に気付いていない張本人は露骨に敵意を剥き出しにしているが。


「あ、いや!…ちょっと、知り合いに似ていたものでつい追いかけちゃって…でも、人違いだったみたいで、失礼しました」


 自分でも、無理のある言い訳だったと思う。探偵帽に変装道具(あからさまに探偵コーデ)の姿がこれ以上彼の目に留められないよう、帽子を目深に被ってそう言うと、しかしアッサリとあでは「あ、そ?」と返事をした。

 はい、すいません。そうへつらって、不審な動作で後ずさりをする。





「じゃ、ねえだろ」


 ーーーと、そこであでの長い腕に捕まった。


「いっ、いでででででで!」


 途端、瞬く間に捕まった腕は背中に一気にたくし上げられ、路地裏の硬い壁に横顔を押し付けられた。男だって勘違いしてるってのか、力に全く迷いも容赦もない。

 すると、耳元に息がかかる程の距離で、あでの低い声がつづく。


「そんなさー、わかりやすいウソつく日本人今のご時世いないっての。さてはお前あのオッサンの回し者だな」

「っは、なんの話っ…いだだだだだだ!!」

「とぼけんなよー。こっちは一応そちらさんの信頼買って働いてんのに、疑ってかかられちゃあ心外だ

 出るとこ出てもいいんだぜ?」


 ギリギリ、と音が鳴るほど腕が(ひし)めきあって、自然反応で口の中に唾液が溜まってくる。ーーーこのままでは折られる、と感じた瞬間、とっさに叫んでいた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ