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RUSH  作者: 或田いち
プロローグ
1/201

 

 お互いのことを理解し親睦を深めるためという名目で、クラスメイト30人、1人1人が教卓に立って自己紹介をする。そんな中学生みたいな経験をさせられたのは、高校2年の春のことだった。


 高校2年生とは言え、当時私は、子供で。今その子供っぽさが無くなったかどうかと聞かれたら疑問だが、少なくとも自分の性と言うものに酷く拒否感を抱いていたのも、その頃がピークだった。


「じゃあ、自己紹介を」


「成滝です。よろしくお願いします」

「成滝ちゃーん、下の名前も頼むよ。せっかくだからフルネームでさ、ホラ」

「苗字だけでいいです…下の名前、嫌いなんで」


 成滝結那(なるたきゆうな)

 乱雑な字でそう書かれた黒板をクラスメイト達がまた目に留める前に、速やかに黒板消しで文字を消し、席につく。

 しばしの膠着状態ののち、また再開されるその作業を尻目に窓の外を眺めていたら、斜めうしろらへんからその声が届いた。


「感じ悪」



 女は、嫌いだった。昔からだ。


 きゃぴきゃぴしていて、明るい。事あるごとに数人で戯れ、それぞれが仲間内で見合った行動をし、何かにつけて他者の共感を求めたがる。嫌いな人間にも嘘の仮面を張り付けては愛想を振りまくし、思ってもいない事を口にして人を褒めて好感を得、その陰で本音を吐露する。


 そんなまわりくどい生き物ばかりでないこともわかってはいたけど、災難にも実際私が17年間生きてきた環境がそういった人間たちばかりで、生まれながらにして違和感を感じていたこの性に、決定打ともいえるトラウマを植え付けられたのも事実だった。



「成滝さん、ちょっとお願いがあるんだけど、いいかな?」

「何?」

「今日の放課後掃除、変わってくれない?

 実はソノカ達とライヴのグッズ買いに行く約束しててさ、知ってる?最近流行りの海外バンド!これが超有名で、数量限定のグッズは本人達のサイン入りなわけ!これがほんとに欲しくてさ」

「わかったよ」


 でも、今回だけだよ。

 学校から任されている仕事は、クラスメート誰に対しても平等で、例外はない。だから次からはちゃんとしてほしい、とか何とか。そのようなニュアンスのことを、荷物整理しながら言ったら。彼女の話を途中で遮ったのがいけなかったのか、それともその前者の発言の問題か。いかにも不服そうに眉をひそめられてしまった。


「…成滝さんてさ」


 そして挙句、こんなことを。


「超ノリ悪いよね」



 そんなことの積み重ねがあってか。気が付いたときには、私は完全にクラスメートの女子の輪から外されるようになっていた。

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