こんな夢を観た「古道具屋でカップ麺を買う」
駅へ行く途中に、古物商が新しくできていた。当然のことながら、店先には古道具ばかり並んでいる。開店したばかりなのに、もう何十年も前から営んでいるかのようだ。
「江戸時代から代々続く店、と言われても、簡単に信じちゃうな」わたしは心の中でつぶやく。
古美術には関心がないので、そのまま通り過ぎるつもりだった。けれど、ショーウィンドウの片隅にぽつん、と置かれたカップ麺が目に入り、思わず足を止めてしまう。
「なんで、カップ麺なんか……」カップ・ヌードル醤油味そっくりだったが、よく見ると微妙に違う。「なになに、『カッパ・ヌードルもろきゅう味』かぁ。見たことも聞いたこともないよ、こんなの」
手書きのラベルには値段だけが書いて貼ってあった。768円だという。カップ麺にしては、やたらと高い。
例え富士山の山頂でも、これじゃさすがに高すぎて、買う人などいまい。
「でも、どんな味がするんだろう。カッパで、しかももろきゅう味だ、って言うんだよ。今まで、そんなの見たこともない。もしかしたら、すっごくおいしかったりして」
1度考えはじめると、もう気になって、気になって。
「買っちゃおう。カップ麺としては高いけど、768円くらいなら、損したっていいやっ」わたしは決心し、店の中へ入った。
奥では、白い口髭をたくわえたおじいさんがイスに腰掛けていた。手にしたキセルからは、緩やかに煙が立ち上っている。
「すいません、ショーウィンドウにある『カッパ・ヌードル』を買いたいんですけど」わたしは言った。
「あ、はい。税込みで1,500円ね」店主が立ち上がる。
「えっ、札には768円って……」慌てて言った。
「あれえ、そうだっけ? じゃあ、負けて768円でいいや」
負けるって……。
茶色い紙袋を抱えて、わたしは家路を急いだ。中には、「カッパ・ヌードル」が入っている。
「楽しみだなぁ。早く、食べてみたい。何てたって、768円もしたんだ。絶対、おいしいに決まってる」希望的観測だろうか。うまいと信じきっている。
家に帰ると、さっそくヤカンでお湯を沸かす。たかだか数分なのに、今はそれすらも惜しく感じられた。
「早く沸かないかな、今日はいつもより沸騰するのが遅い気がするぞっ」
ヤカンを火にかけている間、カップ麺のシュリンクを剥がす。ラベルに書かれている調理時間を確認すると、「きっかり3分」とあった。
「几帳面な人とカップ麺を一緒に食べると、毎回怒られるんだよね」嫌なことを思い出す。3分経ったと思ったので、カップ麺に手を出したら、袋に入ったままの割り箸でその手を叩かれたことがあった。
「まだ、あと10秒っ!」そう真顔で言われたっけ。
ヤカンのお湯を注ぐと、デジタル時計とにらめっこを始めた。いつぞやの1件を気にするわけではないが、なんせ768円もする高級なカップ麺である。きちんと時間を計って食べたかった。
ふだんなら、3分など、それこそあっという間だというのに、こうして待つ時間の長いこと。このまま永遠に時が止まったままなのではないか、とさえ感じられる。
時計の秒表示が、10秒を切った。9、8、7、6……。
「早く、早く」自然に、手がカップ麺へと伸びていく。5、4、3、2、1。
できた! とカップ麺を掴むと、クラッカーのようにフタが弾け飛んで、中から何かが現れた。
「じゃじゃじゃーんっ! お湯を注いで、ジャスト3分っ。カップ麺の魔人、ただいま参上! あなたの望みを何でも1つ叶えましょうっ!」
頭に皿を載せた、どこからどう見てもカッパの親分が、湯気の間からわたしを見下ろしている。
腹ぺこで死にそうだったわたしは、
「カップ・ヌードルを出して。今すぐっ!」
そう頼んだ。




