爪痕と絶望
どうした? 突然マガーラが動きを止めて、ルアーノ街の方角へと顔を向けているぞ…
ルアーノ街に何かあったのか?
ゾクッ…!?
何だ今の気配は!?
儂は今までに感じた事のない“気持ち悪い気配”をルアーノ街の方角から感じとった。
その時、マガーラが紋章を出現させて“カウント”が始まった。
5
紋章に“自爆”と描かれているのを見て、瞬時に行動を起こした。
4
一瞬で距離を詰めてマガーラを掴む、そして奴を凍った巨人へと投げつける。
3
2
マガーラは抵抗せずにそのまま巨人にぶつかる。
1
大爆発が起きた。
[][][]
う……
私が目を開けるとそこには暗闇が広がっていた。
…ここは何処だ?
体を動かそうにも体全体に圧がかかっていて動かない…
「…ぃ……だ……」
声を出そうにも喉がカラカラで出ない。
痛い…誰か……
おかしい…左腕の感覚がない。
「ここだ!ここに“埋まってる”」
私の上から誰かの声が聞こえてくる。
助かった!
上から物をどかす音が聞こえて、どんどん近づいてくる。
そして、暗闇にようやく光が差し込んだ。
「ツカ・エナイ伯爵だ!」
私を確認する兵士が私を瓦礫から拾いあげる。
「!? すぐに治療班の所へ連れていけ!!」
何だ…? 私を見た兵士が顔色を変えて周りに怒鳴っている…
その時私の視界に映ったのは、崩れた城壁と沢山の死体…そして、無くなった私の左腕だった。
[][][]
巨人と悪魔の襲撃の爪痕は酷かった。
自爆したマガーラは城壁を吹き飛ばし、近くにいたレオ伯爵は重傷、吹き飛んだ城壁の下敷きになった兵士達は沢山死んだ。
生き残っても体の一部を失ったりと酷い状態だ…
僕は使い魔が死んで、その反動で意識を失った時に戦場から離れた為大丈夫だった。
ユウキはショックで動けない時にリュウが運んで“逃げていた為”無傷だ。
今僕は治療所にいる。
中は地獄だった。
痛みに耐える人の呻き声と仲間が死んで悲しむ声…その2つが治療所に満ちていた。
「おお、セイヤじゃないか無事だったか?」
突然背後から声をかけられ振り向くと包帯まみれのレオ・リュンクスさんがベッドに横たわっていた。
「レオさん大丈夫ですか?」
明らかに大丈夫じゃないのに、言葉が見つからずとっさに言ってしまう。
「がははっ!! 安心せい、これくらいの怪我はすぐに治る!」
「すいません…」
謝ってしまった…レオさんは僕を心配させないようにと言ってくれたのに…
「ふん、お主はただの“女の子”なのだから、責任を感じるな!」
豪快に僕の秘密を笑いながら言うレオさんだった。
「そこにいるのは勇者様じゃあないかっ!!?」
レオさんと会話をしていると背後から声がした。
声の主はツカ・エナイ伯爵だった。
「私はあなた達が助けてくれると言ったから力を貸したんだ!! なのに、勇者であるお前は無傷で何故“貴族”である私がこんなの目に遭わないといけないんだ!」
伯爵は失った左腕を指差しながら僕に迫ってくる。
「すいません…」
言葉がない…ユウキが言ったことを信じて戦ってくれたのに、勇者が無傷で自分達が重傷なんて確かに裏切られたようなものだ。
「我々“貴族”は今までずっとあなた達に“活動資金”を投資してきました。 だから賠償をするべきだ!!」
えっ!? そんなのあった?
伯爵がそう言うと他の貴族からも「そうだそうだ」と声があがる。
ただ一人を除いて…
「黙れぇェっ!!」
レオさんだった。
レオさんは鬼のような顔で怒鳴り、先程まで文句を言っていた貴族達は驚いて黙ってしまった。
「さっきから聞いていれば“活動資金”を出していただ?
お前達が勝手にどうぞどうぞと渡していただけだろうが!
さらにその資金の出所は“民”からしぼりとった金だろうが…
お前達が自分の生活費を抑えて、民からの金でなければ文句は言わん。
さぁ、言ってみろ嘘は儂には通じんぞ。」
貴族達は反論すらしなかった。
「ありがとうございますレオさん…」
「なに、儂は自分の戦士団員を誇りに思っているからな!」
そう、僕はレオさんの戦士団に入団させてもらっていた。
初めて力を持った僕は強いと自惚れていた。
でもそれは“使い魔”の力だ。
使い魔を除いて性別も力も皆と比べて劣っている。と、レオさんが僕に分からせてくれた。
おかげで今では武術“龍拳”の基礎が使えるようになった。
「さて、セイヤよ…すまんが…正直傷が痛い、涙が出そうじゃ。」
レオさんが少し涙目で言う。それを見て僕は少し笑ってしまう。
「くすっ…分かりました。『光の精霊を守護する鳥よ、契約に従い来たれ!“グローリ”』」
魔法陣が現れて、黄金色の美しい鳥が姿を見せる。
『南よりグローリ、契約に従いセイヤの元へ…』
グローリは僕の肩にとまり、美しい声で言う。
「グローリ、ここにいる人達を治してくれる?」
『お任せを…』
グローリが頷くと黄金色の炎が部屋に雨のように降り注いだ。
黄金色の雨が傷口に触れるとまるで傷などなかったかのように治療所の中を癒やした。
「奇跡だ…」など言う人がいるが、この黄金色の雨は傷を癒やすだけであって、失った体は治すことはできない。
「相変わらず凄いな。」
レオさんが包帯を外すと傷は無いかと確認をする。無いと分かると笑いながら僕の頭をクシャクシャにする。
「ありがとうな。」
レオさんがお礼を言ったけど、お礼を言うべきなのは僕だ…
「皆さん、本当にありがとう。」
目からでる涙を拭きながら言った。
「父上!!」
そこへタイガさんがレオさんを呼びながら入ってきた。
「おお!! タイガよ見ろ!! あの怪我が嘘みたいに治ったぞ!」
「おめでとうございます。しかし、今はそれどころではありません!」
タイガさんの言葉にその場にいる皆がタイガさんを見た。
そしてタイガさんの口から…
「“謎の飛行物体がマーガやドラゴン、ラエティティアなど様々な種族の魔物を大量に引き連れて、帝都に向かって来ます。”」
次の戦いを知らせる言葉が出た。




