【闇からこんにちは】
このお話だけ視点が変わります。
薄暗い部屋にぼんやりと光るパソコン。そのパソコンの前に黒い髪に赤い瞳、羊のような角に黒い蝙蝠の羽根を背負った生命体、インキュバスがマウスの上に乗っかっていた。
彼はマウスよりやや小さい体をばたつかせ、小さな両手でクリックする。
画面には、黒髪に学ランのどこか見覚えある少年が映っている、そしてコマンドが表示された。
「さっきは押し倒してゲームオーバーになったからな、ここは慎重に」
そう言ったインキュバスの体がつまみ上げられる。
「ぬお?」
「あなたは何をしているんです?」
インキュバスが振り向くと、美しい金色の長い髪に、どこか上品な雰囲気を纏った男フィオーレが立っていた。フィオーレの背中からはインキュバスの小さな羽根とは比べ物にならないくらい大きく、ふわふわとした黒い羽根を生やしている。
インキュバスは肩をびくつかせた。
「えっとだな、これは我なりに考えた人間界を支配するシュミレーションで」
小さなインキュバスはフィオーレの手によって握り締められる。インキュバスは手をばたつかせた。
「嘘ですごめんなさい、ただのエロゲーです本当にすみません」
「あなたという人は、こんな事ばかりしているからいつまでも魔界で馬鹿にされるんですよ」
フィオーレの手から解放されたインキュバスは、小さな体をさらに縮こまらせる。
「この人間界を手に入れるのでしょう? あなたのような下級悪魔にこの私が手を貸しているのですから、しっかり付いて来て下さい、わかりましたか」
「……はい」
フィオーレは唇の端を歪めて笑う。上級悪魔であり地位も名誉も思いのままなフィオーレは日々退屈していた。インキュバスに手を貸すのは決して善意からではない。これはそんな彼の退屈しのぎでしかないのだ。
「さて、これから忙しくなりますよ。まずはあの魔法少年をどうにかしないとですね」
「是非お持ち帰りしたいな!」
「黙りなさい」
目を輝かせるインキュバスをフィオーレは軽く指先で弾いた。
インキュバスはそのまま後ろに転げていく。それを見てフィオーレは不気味に笑みを浮かべる。
「魔法少年はなかなかに面白い。…これは良い退屈しのぎになりそうですね」