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おいでませ華

 あの文化祭の後、無断で屋上に侵入した罰として俺達は、放課後生徒達が帰った後の居残り掃除を一週間やる羽目になった。

「そっちはどうだ、終わったか?」

 集めたゴミを入れたゴミ袋の口を縛りながら俺は銀髪の男、ソウに声をかけた。

「ああ」

「…………」

 先程から見ているが奴は同じ場所から一歩も動いていない。申し訳程度に手に持たれていた箒もいつの間にか壁に立て掛けられていた。

 それでも今日で三日目だがあいつはサボる事なくこうしてここに居る。

「……来てるだけまだ良い方なのか」

「お前って馬鹿だよな」

「は?」

 突然口を開いたかと思うとそんな言葉を投げかけられ、俺は思わず手が止まり首を傾げてしまう。

「わざわざ掃除なんてしなくても良かっただろお前は」

 屋上に無断で侵入した事が教員に知れてしまい職員室に呼ばれた時、校内一厳しいと言われている教員はこう言った。

「またお前か」

 ソウはそっぽを向いてあからさまに聞いてないという態度をとっている。俺は内心ヒヤヒヤしていた。

「シランはこんな事するような奴じゃないだろ、お前が無理矢理連れ込んだんじゃないのか?」

「だったら何だ」

 ソウは睨むようにふんぞり返っているその男性教員を見る。

「だとしたら反省文と掃除なんて生温い罰じゃすまないぞ、停学……ああ、お前は今停学したら退学になるな」

「退学にしたいならすりゃあ良いじゃねぇか」

 隣に居る俺は生きた心地がしない。今にも怒鳴り掴みかかりそうな勢いの教員とそんな教員をおちょくり続けるソウ。

「俺が、自分の意志で屋上に行ったんです。無理矢理じゃないですし、特に何もされてません」

「本当か? しかしコイツの態度は」

「ソウが退学になるなら、俺だって同罪だから俺も学校辞めます!」

「は? お、落ち着けシラン」

 勢い任せに行った言葉は職員室中に響き渡り、他の教員達もざわつき始めた。

 そして、ソウの停学処分はなくなりこうして掃除をしている。

「あの時全部オレのせいにしておけば良かったのによ」

「そんな事、出来るわけないだろ。アンタが停学になったらノートを貸していた俺が報われない」

 ソウは少し唇を歪めて笑うとゴミ袋を持ち上げる。

「捨ててくる……あ、それと」

 教室を出ようとしたソウが足を止めて振り返り、

「お前のそういうとこ、好きだぜ」

 そう言葉を残すと教室を出て行った。

 俺達しか居ないから当然ではあるが教室は静まり返っている。

 やることが無くなった俺は、先程の言葉を思い出しては教室内をうろうろしたり落ち着きなく暗くなり始めた空を窓から見ていた。ふと、窓ガラスに微かに人影がうつる。

「やあやあ、そんな所で愛しい人を待っているのですか?」

 突然背後から声がして振り返ると、長い金色の髪を優雅に風に揺らしている見慣れない男が立っていた。

 どうやら室内なのにその男の周りだけ風が吹いているようだ。どんな原理で風が吹いているか俺には分からない。

「そうじゃない……、と言うよりアンタは?」

「私のことはいいのですよ、アナタの事を教えて下さい」

 男がゆっくりと近寄ってくる。

 俺は全力で逃げたい衝動に駆られるも、体が動かない。

「ふふっ、上級悪魔の威圧に動くことすら出来ませんか、魔法少年」

「悪魔……?」

「良いでしょう! そこまで言うのならこの私、悪魔のなかの悪魔であるフィオーレ様の美しい悪魔の姿を見せてさし上げましょう」

 何も言っていないが、男は両腕を優雅に広げる。すると男の背から漆黒の翼が現れた。虫の羽のような物を背負ったどっかの天使とは大違いである。

「どうです! 美しいでしょうこの翼」

「……はあ」

 帰りたくなってきた。だが体が言うことをきかない。このままでは何をされるか分からない。

「ヒヨ!」

「呼んだー?」

 ドアから勢い良く飛び込んできたヒヨがフィオーレの頭に直撃した。

 フィオーレはその衝撃によろめき頭をさすっているがヒヨはケロッとした顔をしている。

「これは厄介な悪魔だね」

「よし、速攻逃げよう」

「駄目だよ、アイツを追い払わなきゃ被害が出るよ、ほら変身して」

 俺は渋々ヒヨの頭からヒヨヒヨステッキを引っこ抜いて変身した。

「ふふ、それが変身した姿ですね。……さあ、楽しませて頂きましょうか」

 フィオーレが羽根を揺すると、黒い羽根が勢い良く飛ばされ、床や壁に突き刺さる。

「羽根ってこんなに殺傷能力高いものだったのか」

 俺はそれを避けながら攻撃の隙を狙う。フィオーレはそんな俺を嘲笑うように、羽根を放つ。

「いつまでも避けてるだけじゃ私には勝てませんよ」

 放たれた羽をステッキで払いのけ、勢い良く飛びかかる。

 だがその大きな羽根で弾き返された。

 俺は呆気なく床に転げる。

 起き上がる暇もなく羽根が再び放たれた。それを転げてかわす。

大勢を立て直す隙すらない。このままではやられる、そう思ったその時。

 再びドアが開く音がした。


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