和葉の事情。9
「和葉って恋人もそうだけど、婚期も逃しそうね。」
冬子の顔は笑っているが、目は憐れみに満ちている。
「…ほっといて。」
そんなの自分がよくわかっているし、今のところ結婚願望もない。
友人以上恋人未満の冬子と…なんて勘違いされてるので、
女の子の紹介云々の話もこないし、そもそも自分が恋愛をしたいと思ってない。
『彼女がほしい』と思う時が果たしてこれから先、自分にくるのかどうかも怪しい。
それを考えると一生独身の可能性大である。
隣で面白そうに冬子が笑っている。
冬子の態度に面白くなさそうに和葉が言った。
「冬子だって、色恋沙汰に興味ないだろ?
冬子も俺と同じじゃん。」
「今は演劇の方が楽しいからね〜。」
和葉の言葉をさらりと受け流す。
しかし、それからちょっと考えて、
「…でも、そうね、和葉、」
「なに?」
「美咲ちゃんが和葉離れして、寂しくなったら、私がお婿さんにもらってあげてもいいわよ?」
「へ?」
和葉は一瞬、自分の耳を疑った。
「一人寂しく置いてかれた和葉を、私が拾ってあげてもいいって言ったの。」
冬子はニッコリと笑った。
和葉は驚いて、ちょっと考えた。
「…それって、冬子もその時まで独身ってことだよな?」
「そうなるわね。」
「その頃にはお互い婚期過ぎてるぜ、きっと。」
「そうかもね。」
機嫌が好さそうに返事をする冬子。
そんな冬子を見ながら、また和葉はちょっと考えた。
「…俺たちって恋人同士じゃないよな?」
「そうね。」
「でもそれってプロポーズだよな?」
「そうよ。」
恋人でもないのに、プロポーズをされてしまった。
「イヤ?」
冬子はまた和葉にニッコリ笑ってみせた。
その顔を見て、一瞬、呆気にとられたが、すぐに和葉も笑った。
「…変なの。恋人同士じゃないのに、結婚の約束しちゃったよ。
でさぁ、俺、絶対そうなる気がするんだけど…、冬子は?」
「同意見だわ。でも、こんなおかしな関係も、面白くていいじゃない?
きっと、私と和葉にしか作れない関係よ?」
「まぁ、普通じゃ聞かない話だよな。
じゃあ、その時になったら今度は俺からプロポーズな。」
「指輪もちゃんと用意してね?」
ちょっと意地の悪い顔で笑って見せた冬子に、
和葉も同じように笑って見せた。
「まかせとけ。」
それから二人は一緒に笑って、劇場を出て、いつも行く、近くのお店に足を向ける。
『恋人がいる?』って聞かれても、たぶんこれからもお互い『いない』って答える。
きっと二人の関係はずっとこんな感じで、
『恋人』や『夫婦』なんて肩書きがなくても、それでもずっと一緒にいるんだと思う。
そしてこの二人の間に入ることは、きっと誰にも出来ない。
これも一つの男女のあり方なんだろう。
和葉の事情はこれで終わりです。
私情で続きを投稿するのが遅くなり、
それでもこれを読んでくださっている皆様にとても感謝しています。
本当に、ありがとうございます。
『ただいまと帰る場所』は、
この話をもって完結とさせていただきます。
次章の『美咲の事情』はサーバー負荷の関係で、
申し訳ありませんが残させていただきます。




