和葉の事情。8
「監督〜、お願いしてたチケット取りに来ました〜。」
智尋と智子の都合のいい日を聞き、その日のチケットを取ってもらえるように劇団に連絡。
そして今日、それを和葉は稽古場まで取りに来た。
「おー。2枚でいいんだったよな?」
「そうそう。ありがとうございます。」
「いやなに。こちらとしてもありがたい。」
監督がチケット2枚が入った封筒を和葉に渡す。
「これからもこの劇団のこと、広めてくれよ?」
「うっす。」
「あれ? 和葉?」
監督としゃべっていると、和葉の存在に気付いた劇団員が一人。
「冬子。」
稽古のせいだろう、ボサボサになった髪を後ろに一つに結び、
ジャージ姿でタオルを首に掛けた冬子が、近づいてきた。
「今日って休みじゃなかったっけ?」
「頼んだチケット取りに来たんだよ。」
「おう。冬子も色々な人にうちのこと宣伝してくれよ?」
「したいけど、和葉ほど顔広くないです。」
冬子は苦笑して監督の言葉を返した。
「和葉、この後なんか予定ある?」
「いや、別に?」
「じゃ、私、これからお昼休憩なの。付き合って。」
「へ〜い。」
監督に改めてお礼を言ってから、冬子とともに稽古場から出る。
稽古場から外に出るまでの長い廊下。冬子が話しかけてきた。
「チケットって美咲ちゃんに頼まれたの?」
「ううん、今回は智尋。」
「千洋ちゃん?」
「違う。新しい弟。」
「あぁ…、そういえばこの間、言ってたっけ。」
冬子は和葉の兄弟たちをきちんと把握している。
なので、身内話をしても説明いらずで楽だ。
「そういえば冬子もチケット、実家に送ったの?」
「うん、一応。でも今回は再演だから、見に来るかどうか…。」
「来るよ、きっと。…たぶん、今回も綺麗な花を持って。」
冬子の両親は冬子が演劇をすることを反対していた。
なので、冬子は家出同然で一人暮らしを始めたのだった。
でも最近は劇団の知名度も上がってきて、その看板女優になった冬子を今は黙って見守っている。
舞台がある時はチケットを送り、舞台が終わると、
両親の名前が書いてあるカードがついた、綺麗な花束が劇団に届く。
直接、渡されたことはないし、対面もしてないみたいだが、
近いうち、それが実現できるんじゃないかと勝手に思っている。
「…そういえばさ、俺たちの関係ってなんなんだろう?」
「は?」
和葉のいきなりの質問に、冬子はキョトンとした。
和葉も冬子もお互いの家庭事情を熟知していた。
劇団で一緒にいるときはいつも側にいる。
劇団内でも自分たちが付き合っていると勘違いをしている者もいるらしい。
「俺たちって『恋人同士』なの?」
「ん〜? そうなの?」
普通、こんな話をしたら、どちらかの勘違い、
または一方通行の片恋と判明して気まずくなりそうだが、
和葉と冬子の場合、会話が普通に成立していた。
「さあ? ただ穂波が智尋にそう言ったみたい。
俺としては恋人を作った覚えはないんだけど、
周りの人間って結構俺たちがそういう関係だって勘違いしてない?」
「あ〜、してるしてる。はたから見ればそう見えるって。
でも和葉?」
「ん?」
「和葉って女の子に興味あるの?」
「そりゃ、俺だってまだまだ若い健全な男ですから、当然、興味はあります。」
「へぇ〜…。」
冬子は和葉の言葉に驚いた。
「何、その反応?」
冬子の反応に和葉は不服そうに言った。
「だって告白してくる子にOK出したことないじゃない。
てっきり『美咲ちゃん一筋』だと思った。」
「………、」
反論したかったが、言い返す言葉が見つからなかった。
美咲のように『お互いだけがいればいい』とは思ってないが、
美咲が手を伸ばしてきたら、自分は迷わずその手を取るだろう。
今までも、これからも、自分が美咲を『妹』以上に見ることはないが、
掴まれたその手を振り払うことは絶対しない。
美咲が離すのを待つしかない。




