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ただいまと帰る場所  作者: 霜波音葉
和葉の事情。
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和葉の事情。7

「…は、和葉、起きて。」


「ん…?」


重いまぶたをなんとか持ち上げると、見慣れない天井が視界に入った。

ぼんやりしてるとその視界に冬子の笑顔が乱入してきた。


「おはよう、和葉。」


「…おはよう、冬子。」


その夜は冬子の部屋で過ごした。


初めての無断外泊と無断欠席だった。


「ねえ、和葉、これっ。」


突然、大声で冬子に呼ばれたかと思うと、冬子はテレビに釘付けだった。

そのテレビにはニュースが流れてて、見知った場所が映っていた。


どうやら昨夜のことを取り上げているらしい。

刺した男は警察に連れて行かれ、

刺された男は病院に搬送され、命に別状はないとレポーターが伝えていた。


なんとなく搬送された病院の名前を覚え、

それから舞台の稽古があると言う冬子と部屋を出て、その日は別れた。


高遠の家に帰ると、まず美咲と千洋に抱きつかれ泣かれ、

目の下にクマを作った一樹兄さんと彩香姉さんにこっぴどく叱られた。


それから千華子姉さんと穂波にニヤニヤされながらしつこく事情を聞かれる。

言ったらからかわれることは目に見えていたし、説明するのも面倒くさかったので、

そこは綺麗に無視を決め込んだ。


その日はいまさら学校に行く気もしなかったので、搬送された病院に行ってみることにした。


ニュースで取り上げられてるほどなので、会うことは無理だと思った。

だが、院内にテレビ関係者が入ることは出来ないようで、

少し院内をさ迷っただけで簡単にその男の病室を発見。

一応、見つかってはいけないだろうと思ったので、こっそり、短い時間だけだったが、会えた。


それから意外な言葉をその男から聞かされた。


「…一応、礼は言っとく。」


応急処置が良かったと医者が言っていたらしい。


この男とはこれから先、一度も喧嘩をしていない。

顔が広いので、頼みごとをしたり、されたり、連絡を取ってはたまに会う。


それは一般的に『友人』と言える関係らしいが、本人たちはあまりピンときていない。


それから刺した男ともたまに会う。

いまでも刺された男の下にいるらしい。


刺された男は刺した男を訴えなかったので、すぐに釈放された。


「兄貴を助けてくれてありがとうございます!」


再会したとき、大声でそう言い、きっちり90度、腰を曲げて頭を下げられたのを覚えている。


あの路地にたむろってた柄の悪い連中は、

リーダー格の男が俺に喧嘩を売らなくなったので、俺に絡むことがなくなった。

それどころか一目置かれるようになってしまった。


まあ、特に何かあるわけじゃないので、そこはどうでもいいけど。



それから、冬子。



喧嘩することはなくなったけれど、それでも毎日、冬子の元に通った。


その通りには他にも何かをしている人はいたが、俺の興味は冬子以外には向けられなかった。

俺は冬子の声がよほど気に入ったらしく、冬子が立つ舞台にも行くようになった。


俺が頻繁に行くようになったので、美咲も興味を示し一緒に行くようになって、

この頃から、美咲の将来の夢が『舞台女優』になった。


たまに冬子から劇団の雑用のアルバイトを頼まれたりして、

俺はだんだんおろそかになっていた習い事を徐々に減らしていった。


そうして劇団の裏側に関わることで、

俺は次第に楽器が弾けなくても音を作れる『音響』に興味を持ち始めた。


高校を卒業する頃には、どっぷりとハマり、習い事はすべて辞め、大学の進路もそっち系を選択した。


それから大学を卒業、アルバイトですでに顔見知りになった劇団側の好意で、今の俺がいる。



家を出る必要はなかったけれど、

美咲はいまだ俺にベッタリで、俺もそんな美咲を振り払うことができない。

だから少し、離れることにした。


同じことを繰り返す…なんて考えられないけど、お互い、少し自立した方がいいと思ったから。


…思っただけで、それが出来ているかどうかと問われれば、そこは黙るしかないけど。

和葉の過去の話はここまでです。

次は今の和葉のことを少し書きたいと思ってます。


読んでくださってありがとうございます。

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