表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ただいまと帰る場所  作者: 霜波音葉
始まり。
2/28

始まり。

『ただいまと帰る場所』の主人公は5人以上の予定です。

主人公の視点でそれぞれの想いを書いていきたいので、

シリーズ化したい話です。


この話はどうして7人兄弟から+1人になったのか。

これからの話の軸になる、一番最初の話になります。

自由気ままな一人暮らしを満喫中。

そんな仕事帰り、郵便ボックスを確認すると一通のエアメールが入っていた。


差出人はオヤジである。



『オヤジ』と言っても、実の父親ではない。


父親は知らない。母親はガキの頃、行方を眩ました。


自動的に俺と妹は施設に送られた。


しかし、すぐに金持ちのオヤジが現れ、俺たちを養子にしてくれた。

なんでもオヤジは、母親の昔からの友人らしい。


それだけの関係で俺たちをすんなり引き取ったオヤジは、お人好しだと思ったが、

連れてかれたでかい家には、すでに血の繋がりがないオヤジの子どもが1人いた。


オヤジはすげーお人好しと判明。

そしてその後、あと一人、兄弟が増えることになった。



そんなオヤジは今、早々に自分の会社を長男にまかせ、事実上、海外で気楽な隠居生活を送っている。


エアメールは俺たち兄弟全員に、月一のペースで送られてくる。


中身は自分の写真。


大自然の中だったり、高級そうなホテルやパーティ会場などで、

いかにも充実してます的な笑顔でオヤジが写っている。


綺麗なお姉さま方に囲まれて、鼻の下を伸ばしている情けない顔をしてるオヤジも時々いる。


もう良い年なんだから自重というものを覚えろ、オヤジ。



エレベーターの中で写真を確認しつつ、自分の部屋のドアを開けると、携帯が鳴った。

ズボンのポケットに突っ込んでいた携帯を取り出し液晶を見ると、一番上の兄からだった。


「もしもし?」


『和葉か? 今、大丈夫か?』


「うん。どしたの、電話なんて?」


肩と耳に携帯を挟んで、靴を脱ぎながら応対。


『お前、今度の日曜、開いてるか?』


「日曜? ちょっと待って。」


靴を脱ぎ捨て、リビングに行く。

そこの壁に掛けてあるカレンダーを見る。


「特に予定はないみたいだけど、その日、なんかあんの?」


うちの兄弟たちは俺を含めて、大変、仲が良い。

誕生日やクリスマスなど、イベント事などには一同集まってパーティである。


『恋人と過ごしたい』なんて思ってるやつは、そいつを家に連れて来るか、会う時間をずらすこと。

パーティの始まりは何があろうが全員揃うこと。


オヤジが決めた方針で、オヤジがいない今もその方針は残っている。


しかし、その日は特に何もない。


『もう一人、兄弟が増えそうなんだ。』


「………は?」


兄の言葉が脳に到達、理解するまでにたっぷり5秒はかかった。


以前にもこんなことはあったが、というか、俺も周りを驚かせた一人だったのだが、

オヤジが海外に行っている今、まさかそんなことが起ころうとは思ってもみなかった。


井上智子いのうえともこという、父さんの学生時代の友人から父さんに連絡があってな、

 自分が病気で入院している間、息子を預かっていて欲しいと頼まれたそうだ。』


「なるほど。」


それをオヤジは快く引き受けたわけだ。


「で、その子が来るのが日曜だと。」


『そう。それと、和葉。迷惑だろうがお前に頼みたいことがあって…な。』


少し言いにくそうに語尾の声が小さくなった。


「? 何?」


少し間が合って、微かに息を吸う音が聞こえた。


『…その子が今、高校生でな…、通っている学校が高遠の家から少し遠いんだ…。』


あぁ、なるほどね。


「…兄さん。兄さんが言いたいことがなんとなくわかったよ。」


電話なのだから相手の顔は見えない。

だが、電話の向こうで兄が苦笑しているのがわかった。

電話口から兄の乾いた笑い声が聞こえてくる。


まぁ、仕方がない。

一つ、息を吐いてから、俺は兄さんの言いたいであろうことを言った。


「ここから通わせようってんだろ?」


『あぁ、お前の所からが一番通いやすいんだよ。

 …悪いが、頼めるか?』


「いいよ、別に。」


尊敬する兄さんと可愛い弟(になる予定)の頼みを断る気はない。

だがしかし、一つ、不安がある。


「ただ俺の所に来ても、俺、ろくに世話は出来ないと思うけど…。」


食事はコンビニか、外食だし、

仕事で帰らない日もあるし、家にいてもやっぱり仕事で部屋に籠ってることが多い。

そんな環境で育ち盛りが大丈夫か…?


『本人曰く、その方が逆に気が楽だと言っていた。

 それに母親が仕事で帰りが遅く、家事なんかは一人でやってたらしい。』


おぉ、俺よりしっかりしてそうだな。


「そういえば父親は?」


『すでに亡くなっているそうだ。』


まぁ、父親か親戚がいたら、わざわざ友人に頼ることはしないか。


「母親の入院はいつまで?」


『それがまだちゃんとした日程は決まってないんだ。

 今回の入院は検査だけだそうだが、もし異常が見つかったらどうなるかわからん。』


「はっは〜ん、もし異常が見つかったら、オヤジ、その子を養子に迎える気だな?

 ついでに母親の治療費も出しそうだ。」


『俺も同意見だ。だから兄弟がまた一人増えると思ってる。

 だが、そうなった場合、お前の負担にはなるだろうが…。』


もし養子になったら、母親の入退院関係なくなるからな。


「いいよ。そこら辺は気にしなくて。

 その子が良いってんなら、別にいつまででも居ればいいさ。」


『助かる。』


「いえいえ。じゃあ、今度の日曜日にこっちに来ると?」


『その前に、みんなに紹介しとこうと思ってな。お前の都合は?』


「その日は丸々予定ないから大丈夫。その日、高遠の家に帰るよ。」


『あぁ、そうしてくれ。すまないな。』


「兄さんが謝ることじゃないだろ。気にすんなって。じゃ、日曜日に。」


『日曜日に。』


そうして電話は切れた。


自由気ままな一人暮らしは、どうやら二人暮らしになるようだ。

さしあたってまずやることは、………部屋の掃除かな?


和葉は服や雑誌が散らばったリビングを見て、溜息と共に、憂鬱感を感じた。


「片づけ…苦手なんだよね…。」


だが、そうも言ってられない。


和葉はのろのろと、床に広がっている服を拾い始めた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ