始まり。
『ただいまと帰る場所』の主人公は5人以上の予定です。
主人公の視点でそれぞれの想いを書いていきたいので、
シリーズ化したい話です。
この話はどうして7人兄弟から+1人になったのか。
これからの話の軸になる、一番最初の話になります。
自由気ままな一人暮らしを満喫中。
そんな仕事帰り、郵便ボックスを確認すると一通のエアメールが入っていた。
差出人はオヤジである。
『オヤジ』と言っても、実の父親ではない。
父親は知らない。母親はガキの頃、行方を眩ました。
自動的に俺と妹は施設に送られた。
しかし、すぐに金持ちのオヤジが現れ、俺たちを養子にしてくれた。
なんでもオヤジは、母親の昔からの友人らしい。
それだけの関係で俺たちをすんなり引き取ったオヤジは、お人好しだと思ったが、
連れてかれたでかい家には、すでに血の繋がりがないオヤジの子どもが1人いた。
オヤジはすげーお人好しと判明。
そしてその後、あと一人、兄弟が増えることになった。
そんなオヤジは今、早々に自分の会社を長男にまかせ、事実上、海外で気楽な隠居生活を送っている。
エアメールは俺たち兄弟全員に、月一のペースで送られてくる。
中身は自分の写真。
大自然の中だったり、高級そうなホテルやパーティ会場などで、
いかにも充実してます的な笑顔でオヤジが写っている。
綺麗なお姉さま方に囲まれて、鼻の下を伸ばしている情けない顔をしてるオヤジも時々いる。
もう良い年なんだから自重というものを覚えろ、オヤジ。
エレベーターの中で写真を確認しつつ、自分の部屋のドアを開けると、携帯が鳴った。
ズボンのポケットに突っ込んでいた携帯を取り出し液晶を見ると、一番上の兄からだった。
「もしもし?」
『和葉か? 今、大丈夫か?』
「うん。どしたの、電話なんて?」
肩と耳に携帯を挟んで、靴を脱ぎながら応対。
『お前、今度の日曜、開いてるか?』
「日曜? ちょっと待って。」
靴を脱ぎ捨て、リビングに行く。
そこの壁に掛けてあるカレンダーを見る。
「特に予定はないみたいだけど、その日、なんかあんの?」
うちの兄弟たちは俺を含めて、大変、仲が良い。
誕生日やクリスマスなど、イベント事などには一同集まってパーティである。
『恋人と過ごしたい』なんて思ってるやつは、そいつを家に連れて来るか、会う時間をずらすこと。
パーティの始まりは何があろうが全員揃うこと。
オヤジが決めた方針で、オヤジがいない今もその方針は残っている。
しかし、その日は特に何もない。
『もう一人、兄弟が増えそうなんだ。』
「………は?」
兄の言葉が脳に到達、理解するまでにたっぷり5秒はかかった。
以前にもこんなことはあったが、というか、俺も周りを驚かせた一人だったのだが、
オヤジが海外に行っている今、まさかそんなことが起ころうとは思ってもみなかった。
『井上智子という、父さんの学生時代の友人から父さんに連絡があってな、
自分が病気で入院している間、息子を預かっていて欲しいと頼まれたそうだ。』
「なるほど。」
それをオヤジは快く引き受けたわけだ。
「で、その子が来るのが日曜だと。」
『そう。それと、和葉。迷惑だろうがお前に頼みたいことがあって…な。』
少し言いにくそうに語尾の声が小さくなった。
「? 何?」
少し間が合って、微かに息を吸う音が聞こえた。
『…その子が今、高校生でな…、通っている学校が高遠の家から少し遠いんだ…。』
あぁ、なるほどね。
「…兄さん。兄さんが言いたいことがなんとなくわかったよ。」
電話なのだから相手の顔は見えない。
だが、電話の向こうで兄が苦笑しているのがわかった。
電話口から兄の乾いた笑い声が聞こえてくる。
まぁ、仕方がない。
一つ、息を吐いてから、俺は兄さんの言いたいであろうことを言った。
「ここから通わせようってんだろ?」
『あぁ、お前の所からが一番通いやすいんだよ。
…悪いが、頼めるか?』
「いいよ、別に。」
尊敬する兄さんと可愛い弟(になる予定)の頼みを断る気はない。
だがしかし、一つ、不安がある。
「ただ俺の所に来ても、俺、ろくに世話は出来ないと思うけど…。」
食事はコンビニか、外食だし、
仕事で帰らない日もあるし、家にいてもやっぱり仕事で部屋に籠ってることが多い。
そんな環境で育ち盛りが大丈夫か…?
『本人曰く、その方が逆に気が楽だと言っていた。
それに母親が仕事で帰りが遅く、家事なんかは一人でやってたらしい。』
おぉ、俺よりしっかりしてそうだな。
「そういえば父親は?」
『すでに亡くなっているそうだ。』
まぁ、父親か親戚がいたら、わざわざ友人に頼ることはしないか。
「母親の入院はいつまで?」
『それがまだちゃんとした日程は決まってないんだ。
今回の入院は検査だけだそうだが、もし異常が見つかったらどうなるかわからん。』
「はっは〜ん、もし異常が見つかったら、オヤジ、その子を養子に迎える気だな?
ついでに母親の治療費も出しそうだ。」
『俺も同意見だ。だから兄弟がまた一人増えると思ってる。
だが、そうなった場合、お前の負担にはなるだろうが…。』
もし養子になったら、母親の入退院関係なくなるからな。
「いいよ。そこら辺は気にしなくて。
その子が良いってんなら、別にいつまででも居ればいいさ。」
『助かる。』
「いえいえ。じゃあ、今度の日曜日にこっちに来ると?」
『その前に、みんなに紹介しとこうと思ってな。お前の都合は?』
「その日は丸々予定ないから大丈夫。その日、高遠の家に帰るよ。」
『あぁ、そうしてくれ。すまないな。』
「兄さんが謝ることじゃないだろ。気にすんなって。じゃ、日曜日に。」
『日曜日に。』
そうして電話は切れた。
自由気ままな一人暮らしは、どうやら二人暮らしになるようだ。
さしあたってまずやることは、………部屋の掃除かな?
和葉は服や雑誌が散らばったリビングを見て、溜息と共に、憂鬱感を感じた。
「片づけ…苦手なんだよね…。」
だが、そうも言ってられない。
和葉はのろのろと、床に広がっている服を拾い始めた。