和葉の事情。2
久しぶりの『ただいまと帰る場所』です。
「舞台のチケット?」
夕食を済ませ片付けも終わり、まったりとした時間が流れている時、
智尋はさっそく和葉に話を切り出した。
「はい。母も和葉さんが作った曲の舞台を見てみたいと言ってたので、
迷惑じゃなければチケットを取って頂けないかと…。」
「マジ? 取る取る、何枚でも。大歓迎っ。」
和葉は嬉しそうに智尋の願いを承諾した。
「ありがとうございます。」
「いやいや、礼を言うのはこっちの方。
劇団側の人間としては、一人でも多くの人に見てもらいたいからね。」
和葉はさっそく仕事部屋からスケジュール帳を持ってきて、
日程の確認を始めた。
「今月末に公演予定があるんだけど、その時でいいか?
智子さんと智尋の都合のいい日のチケット取るから、智子さんに確認してくれるか?」
「わかりました。聞いときますね。」
「おう。この舞台、再演なんだけどさ、結構評判が良いやつなんだ。
美咲もこの舞台は好きで何回も見に来てる。2人も気に入ってくれたら嬉しいなぁ〜。」
和葉の口から美咲の名前が出たことで、智尋は昼間、穂波から聞いた話を思い出した。
「そういえば、和葉さん。」
「ん?」
「和葉さんの恋人ってどんな人なんですか?」
智尋は軽い気持ちで聞いてみたのだが、和葉は鳩が豆鉄砲を食らったような顔をした。
「なんだ、それ? 俺に恋人なんていないぞ?」
キョトンとしたまま和葉は答えた。
そんな和葉を見て、そういえば…、と穂波の言葉を思い出す。
『本人はそんな関係じゃないって否定…、』
聞いてはいけないことだったろうか?
突然、不安そうになった智尋の顔を見て、
どうしていきなり智尋がそんなことを言い出したのか、和葉はなんとなく思い当たった。
「その話、千華子姉さんか穂波から聞いたのか?」
「え、はい。今日、穂波さんから…。」
和葉は予想通りの智尋の返答に溜息をついた。
「あの2人は、俺と『あいつ』を恋人だと決めつけてるからな。
事実無根の話だよ、それ。」
「そうなんですか?」
「そう。じゃなかったら美咲が大人しくしてるわけないじゃん。」
自分で言ったことに苦笑しながら和葉は言ったが、納得してしまったら美咲に失礼だろうか?
「ま、今、俺が劇団で働いてるきっかけは確かに彼女だけどな。
でも、特に異性って意識したことないし、そんな色恋沙汰な仲ではないよ。」
なんでもないように言う和葉は嘘は言ってないだろう。
そして智尋の興味は別に移った。
「劇団で働くきっかけ?」
これって結構、和葉の人生に置いて重大なことじゃないだろうか?
和葉の『今』を決めたのだから。
「ああ。俺、中学の頃からボクシングジムに通ってたんだけど、」
「あ、それ、今日聞きました。その他にも色々習ってたって。」
「うん。なんか色んなことしてたな、あの時期は。
まぁ、それで夜、よくロードワークとかもしてたんだけど、そのコースの路上で歌、唄ってたんだ。」
それが彼女との出会い。
「ひと休みとして彼女の歌を聞いて、それからまた走る。
そんなこと繰り返してたら、顔なじみになっちゃって、それでなんとなく音楽に興味持って、
それでこんな職業についてしまったわけだ。」
ヘラっと和葉は言ったけど、路上で歌を聞いて、それで作曲家にまでなるってすごすぎないか?
「劇団の看板女優やってるだけあって、穂波みたいに人を引き付けるものがあると思うよ。
そして俺もまんまと引き付けられちゃったわけだ。
智尋も会ってみれば、たぶんわかるよ。それが彼女の力だ。」
和葉は今、自慢をしている。智尋はその事に少し驚いた。
いつも家族のことを考えて愛情を注いでいる和葉は、家族の自慢をする。
智尋も家族の一員だと認め、智尋のことも誇りに思ってくれている。
これは智尋の自画自賛ではなく、本当にそうなのだ。
そんな和葉が家族以外の人に興味を引かれ、認め、自慢している。
和葉は顔が広いと思う。
突然、和葉が連絡をしても、表向きに文句を言う人もいるが、
最後は結局和葉の頼みを聞き入れ、本気で嫌がる人を聞いたことがない。
それは和葉の人望だ。
和葉にも間違いなく人を引き付ける力がある。
そんな和葉が一目置く人物。
和葉の特別な人間だと思ってもおかしくない。
穂波が『和葉の恋人』と言ってもおかしくない気がした。
どんな人なのか、智尋はますます興味を持った。
次回から、和葉の学生時代の話が書けたらなと思ってます。
それから出来ればもっと早く続きをUPしたいと…(汗)
読んでくれている方々、申し訳ありません。




