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ただいまと帰る場所  作者: 霜波音葉
和葉の事情。
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和葉の事情。

いつも話の中心に関わってきた和葉のお話です。



日曜日、今日も高遠家では美咲にアプローチしては返り打ちにされている穂波がいた。


さすがの智尋も、もう見慣れてしまった。


最初、和葉に穂波がどんな人か問うた時、『千華子の小型版』と言われて疑問に思ったが、

何度ふられても自分に真っ直ぐ過ぎる穂波は、確かに『千華子の小型版』に見えた。


「あら、智尋、お帰り。」


智尋の存在に美咲が気付き、笑顔で迎えられた。


「ただいまです。」


智尋が返事を返すと美咲の後ろにいた穂波が美咲に抱きつきながら、


「お帰り、智尋。」


と言ったが、即座に美咲の華麗なる一本背負いが決まった。


「ふっ…、さすが美咲。良い一本だったぞ。」


投げられ仰向けで倒れている穂波は、それでも美咲に爽やかに笑って見せた。


どこまでも懲りない人である。


「…そういえば、美咲さんって何か格闘技でもしてるんですか?

 穂波さんも。」


「何? 突然?」


美咲がキョトンとした。


「いや、さっきの一本背負いといい、美咲さん、技の型が綺麗ですよね。

 穂波さんもちゃんと受け身取れてるみたいだし…。」


学校の授業で習う程度の経験しかないが、

素人目にもわかるほど、美咲の技は綺麗だった。


「柔道はちゃんと習ったことはないけど、和葉兄さんが護身術にって教えてくれたのよ。」


「和葉さんが?」


美咲は褒められて嬉しそうに話した。


「俺は一応、習わされたけど、和葉兄と手合わせして勝てたことは一度もないな。」


上体を起こしながら答えた穂波に、美咲が呆れた顔をする。


「あんたは真面目に習ってなかったじゃない。

 兄さんがそんなあんたに負けるわけないでしょ。」


「和葉さんて格闘技習ってたんですか?」


「…というか、これでも高遠は名家だからな。護身術程度は誰でも習う。

 ただ、和葉兄は別格だな。」


「別格?」


「基本は力がない女でも身を守れる合気道が主流だけど、

 兄さんは合気道の他に、柔道、剣道、空手、あと中学の頃からボクシングのジムにも通ってたのよ。」 


美咲がまるで自慢するように説明してくれた。


「そんなにですか?」


智尋は呆気に取られた。


そういえばこないだの穂波のストーカー問題で、

和葉がそのストーカーであった穂波の義母ははおやを投げ飛ばしたとかで、騒いだなと思い出す。


ちらっと穂波の方を見ると目が合って、苦笑され頷かれた。


おそらく智尋が何を考えていたのか、わかったのだろう。


「けど、高2、3?ぐらいにはもう全部やめてたけど。」


穂波のその言葉に美咲が急に暗い顔をした。


「美咲さん?」


「…なんでもないわ。」


その次の瞬間、美咲の顔は笑顔に戻った。


「智尋、智子さんに会いに来たんでしょ?」


「え、はい…。」


「早く行かないと、きっと待ってるわ。じゃ、私ももう行くから。」


笑顔で手を振り、美咲はその場から離れた。


「…あの、俺、なんか変なこと聞きましたか?」


美咲の態度があまりにもおかしかったので、穂波に聞いてみた。


「いや、そういうんじゃねぇよ。

 ほら、前に言っただろ? 和葉兄は問題児だったって。」


和葉が強く否定してたので、あまり気にとめていなかったが、

美咲の態度からして、『何か』はあったんだろう。


「目に見えて不良だったわけじゃないけど、

 あの頃の和葉兄は今よりも少しピリピリしてた印象はあるな。」


いつも優しい雰囲気の和葉がピリピリ?


智尋にはいまいちピンとこなかった。


「実際何があったのか、正確には俺も知らないんだけど、

 なんか『恋人おんな』が出来てからそれがなくなったんだよ。」


「『恋人おんな』っ?」


智尋は驚き、穂波はその反応を面白そうに笑った。


「そ。和葉兄に『恋人おんな』っ。

 美咲にとってこれほど面白くないものはないだろうな。」


穂波は嬉しそうに言う。


自他共に認める超ブラコンの美咲が好きな穂波にとって、最大のライバルは和葉だ。

それは嬉しいことだろう。


「今もいるんでしょうか?」


穂波のように華やかで人目を引くわけではないけれど、和葉の容姿も充分、女性受けすると思う。

それにあの性格だ。いない方がおかしいのだが、和葉の雰囲気からは想像出来なかった。


「本人はそういう関係じゃないって否定してるけど、ちゃんといるぜ?」


「そうなんですか?」


だいたい仕事で家にいないか、いても仕事部屋に籠っていることが多い和葉。

休みの日は確かに出かけたりはしているが、恋人に会うような、そんな感じは微塵もない。


不思議に思っている智尋を見て、穂波はニヤッと笑った。


「劇団員だよ。」


「あ。」


穂波の言葉に目から鱗がこぼれた。


確かに劇団員が相手ならば、仕事中、ずっと一緒にいる。


「今は真剣に取り組んでるけど、美咲が舞台女優になりたいって思ったきっかけでもある。」


「…へぇ。」


「劇団の看板女優で年上美人なんだぜ。興味があったら今度、和葉兄に聞いてみろよ。」


穂波は面白そうに言った。



穂波の言い方はまるでからかうようだったけど、

あの和葉の恋人だ。興味はある。


母も和葉が曲を作った舞台を見てみたいとも言っていたし、

今度、機会があったら聞いてみようと智尋は思った。

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