穂波の事情。・5
一ヶ月後、高遠家。
「しつっこいっ!」
美咲の怒鳴り声が響いたかと思った瞬間、『どかっ』という大きく鈍い音がする。
どうやら美咲の蹴りが穂波を壁にめり込ました音のようだ。
そこに絶句する智尋と、諦めきった顔の和葉がいた。
「お前、相変わらずだな。
少しは変化球というものを覚えたらどうだ?」
溜息交じりで穂波にアドバイスを送る和葉。
「俺はいつでも直球だよ、和葉兄。」
一番ダメージが大きかった鼻を押さえ、半泣きになりながらも、
穂波はキリッとした真面目な顔で和葉に返事をした。
どうやらまだまだ美咲との攻防は終息することはないようだ。
「…で? お前の心配事は片付いたのか?」
あれから一カ月、音沙汰がなかったので、事がどうなったのか聞きに、
母に会いに来た智尋に付いて、和葉も高遠家に帰ってきたのだ。
「あぁ、うん、まぁ…、立ち話もなんだから…、」
そう言って穂波は顔をさすりながら、自分の部屋の方向を指さした。
「父親と話をした。電話だけどね。」
穂波の部屋に通され、適当に座ると穂波が話し始めた。
「ほう…?」
和葉が驚いた顔をする。
「…ところで和葉兄はどこまで知ってんの?」
どこから説明していいのかわからない。
おそらく和葉が知っていることは智尋も知っているんだろう。
「お前の義母がお前のストーカーだってことと、お前の両親が離婚調停中だってこと。
あと、手紙の内容は少し一樹兄さんから聞いた。」
和葉から聞いた後、智尋を見ると、智尋は黙って頷いた。
「…父親と話っていっても、一方的に言いたいことを言っただけだけどね。
向こうも反論があったろうけど、それは全部無視した。」
「…へぇ。」
以前の穂波ならば考えられない行動に、和葉は可笑しそうに相槌を打った。
「まだ感心するには早いよ、和葉兄。」
可笑しそうにしていた和葉を怒ることもせず、穂波は話を進める。
「なんせ、あの女とも話したんだからな。」
穂波のこの言葉に智尋はもちろん、和葉も驚いた顔をした。
ずっと避け続けてきた2人と自分から話すことを決めたのだ。
そのくらい驚いてもらわないと、納得いかない。
「…それで? あの女とは何を話したんだ?」
真剣な顔をして和葉は穂波に聞く。
おそらく和葉も一樹と同じ考えをしていたんだろう。
追いつめられたあの女が、自分に危害を加える可能性があると。
だから接触したことでどうなるのか心配している。
しかし穂波は軽い感じで報告をした。
「別に。キッパリとフッただけ。」
「「フッた?」」
和葉と智尋の声がハモッた。
「そう。俺はあんたのことが嫌いだって言った。
それから二度と俺に付きまとえないようにしてやるって。」
「どうやって?」
「そこらへんは一樹兄に任せた。」
キッパリと言った穂波に和葉も智尋も呆れた。
「面倒なことはやりたくないお前らしいが、それでそいつが本当に手を引くと思ってるのか?」
「これが案外、大打撃だったみたい。」
「は?」
「いままでは怖がって、俺があんな風に突き放したことなんてなかったから、すげぇ驚いた顔してた。
あの女にとって俺は、あの頃のまんまだったんだろうな…。」
「…でも、それでホントに『めでたし』かどうかはわからない。」
穂波の緊張感の無さを心配して、忠告のように和葉は言った。
けど、それは穂波もわかっているようだった。
「うん、一樹兄もそう言ってた。だからもうしばらく外出時はボディガードさん付き。」
「だろうな。」
一樹の判断に和葉はホッとした。
「でも…、」
「ん?」
「なんとなく…なんだけど、もう二度と、あの女とは会わない気がする…。」
それはもちろん不確定な話。でも、穂波は何故か確信があった。
そんな穂波の顔を見て、和葉は口を出すのをやめた。
これ以上、心配する必要はない。そう思った。
心配そうな顔をしている智尋の方を見てニッコリ笑うと、
和葉の考えが伝わったのか、智尋も安心したように笑い返した。
「そういえば和葉兄?」
「ん?」
「あの女に襲われた時、投げ飛ばしたってホント?」
和葉はギョッとし、智尋は驚いた。
「投げ飛ばしたって和葉さんがっ?」
「いやっ、あれは不可抗力だっ。」
「じゃ、投げ飛ばしたのはホントなんだ?」
慌てて智尋に否定する和葉に、穂波がさらに突っ込む。
「違うっ。投げ飛ばしてはない。
ちょっと手をひねって後ろ手にして大人しくしてもらっただけだ。」
「寝技っ?」
「違うっ!」
和葉と穂波のやり取りを驚いたまま聞いていた智尋が、疑問を口にした。
「…和葉さんってもしかして喧嘩、強いんですか?」
智尋の質問に答えようとした和葉よりも先に、穂波を言葉を発する。
「和葉兄は強いってもんじゃないぞ、智尋。
こう見えて和葉兄は学生時代、問題児だったんだからな。」
「そうなんですかっ?」
「穂波、嘘つくなっ。」
「嘘なんて言ってないじゃん。毎晩帰りが遅くて一樹兄も彩香姉も心配してた。」
「あれはそういうんじゃないっ。」
「じゃ、なんだってんだよっ?」
『ぎゃあ、ぎゃあ』と、珍しく和葉と穂波の声が高遠の家に響く。
ここに美咲が入ってきて、さらに賑やかになったのは言うまでもない。
穂波の話はここで終わりになります。
ここまで見ていただきありがとうございました。
ここまで2日置きに小説をUPしてきましたが、
私生活の方がばたばたしてきてしまい、
小説UPの間隔が開いていってしまうかもしれません。
こんなつたない文章でも見てくださっている皆様、
申し訳ありません。
もしよろしかったら、この人の話が見たいなどのリクエストがありましたら、
お気軽に言ってもらえると本人、とても喜びます。
これからもよろしくお願いします。




