穂波の事情。・2
「義母から…?」
和葉は眉をしかめる。
「うん。なんか俺が留学してた一年分の手紙を今日渡されて、
そこにほぼ毎月…、先月の消印もあった。
それ見たらなんとなくさぁ…。」
穂波はソファに背中を完全に預け、天井を見ながら浮かない顔をして溜息をついた。
「…一樹兄さんはこのこと知ってんのか?」
「なんか使用人が管理してたみたいだから、微妙だと思う。」
穂波が天井を見ながら、和葉の問いに答えた。
そんな時、玄関の方からロックを解除する音が聞こえ、玄関が開いた。
「ただいま、和葉さん。」
智尋だ。
今日はホワイトボードに何も書かれていないので、普通に玄関で声を出した。
「お帰りー、智尋。」
「おっかえり〜。」
リビングに入ると和葉と、手をひらひらさせている穂波がいた。
「穂波さん。」
見慣れない靴があったので誰かと思っていたが、穂波だったのだと智尋は納得した。
「邪魔してるよ。」
「どうぞ、ごゆっくり。」
穂波の言葉に智尋は笑顔で返した。
そんな智尋を見て、穂波が思い出したように口を開く。
「なぁ、智尋?」
「はい?」
「お前、母親と仲いいよな?」
「? はい。」
「普通の母親ってどんなの?」
「…へ?」
穂波の質問の意味を理解しきれず、智尋は呆気に取られた。
和葉は、穂波の質問に苦笑した。
そんな質問にすぐ答えられる方がすごいと思う。
「あ〜、とりあえず智尋、着替えておいで。
それから穂波の言いたいことを説明するから…。」
「はい。」
「ありがとうございます。」
部屋着に着替え、和葉の隣に座った智尋の前に、和葉がお茶を置く。
「…突然、悪かった。」
智尋が着替えてる間、反省した穂波が申し訳なさそうに智尋に謝る。
「いいえ。そんなことないですよ。」
「俺らって、あんま母親と縁がなくてさ、
普通の仲が良い母子ってどんな感じなのかということを聞きたかったんだ。」
「どんな感じ…ですか…。」
穂波の説明に意味は理解したが、やはり答えにくい質問である。
どう言っていいか迷っている智尋を見て、和葉が口を開いた。
「まぁ、まず普通の母親は実の息子を襲うことはないだろう?」
「襲うっ?!」
和葉の言葉に智尋はギョッとした。
「こいつの母親はそうなんだよ。」
「それって虐待…?」
「「それは『ちー』。」」
和葉と穂波の声がハモった。
そのこととその答えに智尋は驚く。
「え…、『ちー』って千洋ちゃんですか…?」
「「うん。」」
またハモる。
「あそこは母親が精神的に参っててな。それでオヤジが正式に千洋を引き取ったんだが…。
ま、こいつの場合も虐待は虐待か。いわゆる性的虐待ってやつだな。」
「母親が…実の息子を…?」
「いや、義理の母親だ。穂波の父親の再婚相手。」
なんだか自分とは縁がない話過ぎて、ついていけてない気がする…。
「あ、聞きたくないなら別に聞かなくて良いぞ?」
困惑している智尋に気付き、穂波が心配そうに言った。
「聞いてて良い気分な話じゃないことは確かだからな。」
そう言って笑った穂波の顔は、智尋には悲しげに見えた。
そんな顔をさせたかったわけじゃない。
「あのっ、聞きたくないわけじゃないんです。」
智尋はあわてて否定した。
「ただ、俺はそんな経験がないから、その、
穂波さんがどのくらい辛かったとか理解できないと思うし、
そんな俺がなんか言ったとしても、結局は偽善的というか…。」
智尋の言葉に穂波はキョトンとして、和葉は優しく笑っていた。
「あの…?」
「…なんだ。そんなこと考えてたのか。」
「智尋らしいな。」
「え?」
穂波はちょっと驚いたように言い、和葉は嬉しそうに笑っていた。
そんな2人の反応に智尋が困惑する。
そんな智尋を見て、穂波が嬉しそうに笑った。
「智尋。俺は聞いてほしいから言ってるのであって、
お前がそんな心配する必要はないよ。
むしろ智尋がそう思ってくれてるのが嬉しい。」
ニッコリ笑った穂波に智尋はホッとした気持ちと、
改めて、穂波が綺麗な顔をしていることに気付いた。
男の自分がそう思うのだから、女の人はもっとこの人に惹かれるんじゃないかと思った。
その義理の母親というのも、穂波にとって大迷惑な話だが、惹かれたんだろうか?




