穂波の帰宅。・2
「ただいまー。」
大きな元気な声で穂波は帰ってきた。
端正な顔立ちで、流行りの服もそれとなく着こなし、
とにかく人目を引く人だっだ。
智尋は仕事の予定が入っていた和葉よりも早く来て、
母と過ごしながら、穂波の帰りを待っていた。
家を出ている兄妹たちもぞくぞく集まってくる中、美咲がいないことに気付いた。
和葉と同じように用事でもあって、出かけているだけだと思っていたのだが、
美咲がいないことに気付いた兄弟たちは妙に納得し、苦笑を浮かべているのを不思議に思った。
昨日の和葉の様子と似ていて、兄妹喧嘩というのは美咲と穂波のことだと察した。
しかし、穂波は智尋の予想と違う反応を示した。
「なんで美咲がいないんだよっ。」
美咲がいないことに怒りを感じているようだ。
…というか拗ねていると表現した方が正しい気がした。
喧嘩する相手がいないからつまらない…とか?
「ほら、美咲はそのうち帰ってくるから、まずは智尋に挨拶をしないか。」
一樹が穂波の首根っこを掴み、智尋の前まで引きずってきた。
「あ…、」
「あ〜、お前が智尋かぁ〜。俺、穂波な。よろしく。」
首根っこを掴まれたまま、穂波はにっこり笑って智尋に手を差し出してきた。
「よ、よろしくお願いします。」
その手に答え、智尋も手を出し握手した。
醸し出す雰囲気は、千華子というより和葉に近い気がした。
それからお土産だと言って、香水や化粧品などを取り出し、女性陣へ。
男性には男物のアクセサリーを。
智尋にもきちんと買ってきてくれたらしく、
「これは、お前のな。気に入ってくれるといいんだけど…。」
と、シルバーのアクセサリーを渡してくれた。
みんな、お土産を貰って喜んでいる。その姿を見て穂波も喜んでいる。
いつもの仲の良い高遠家だ。とても喧嘩するとは思えない。
そんなことを考えていたら、玄関の方から、『ただいま』の声が聞こえた。
「和葉かしら?」
彩香が立ち上がり、玄関の方へ和葉をお出迎えしに行った。
そして、
「和葉兄っ!」
和葉が広間に姿を現すと、穂波は満面な笑顔を見せて、
抱きつかんばかりの勢いで和葉に近づいたのだが、
そのすぐ後ろに隠れるようにしていた美咲を見つけて、興奮の度合いが一気に上がった。
「美咲っ! 会いたかったぞーーーっ!」
和葉に向かっていた勢いのまま、抱きつく標的を美咲に変えた。
だが、
「ぐぅあっ、」
穂波の声は悲痛な声に変わり、その場に倒れこんだ。
「なっ?!」
驚いている智尋をよそに、周りは『やれやれ』といった感じで特に反応を示さなかった。
美咲は不機嫌丸出しで、右手はグーを作っている。
どうやらあれが穂波の腹にクリーンヒットしたらしい。
「美咲、やっぱり和葉の所に行ってたのね。」
穂波が倒れたことはお構いなしで千華子がそう言った。
他の兄妹たちもそのことは特に気にしてないらしい。
一人、状況が理解出来ていない智尋の服の裾を、千洋が遠慮がちに引っ張ってきた。
「千洋ちゃん…?」
それから近づくように促され、耳打ちをされた。
「あのね、穂波兄さんは美咲姉さんのことが好きなの。
でも美咲姉さんは和葉兄さんのことが好きだから、穂波兄さんのこと、ふったんだって。
それでも穂波兄さんが諦めないから、2人が会うといつもこんな感じになっちゃうの。」
「なるほど…。」
…と、言っていいものか、つまりこれが和葉がいう兄妹喧嘩なわけだ。
しかし、少し過激過ぎないだろうか?
大の男一人がK.O.されたのだが…。
「帰ってそうそうこれか…。」
和葉が溜息交じりで倒れた穂波の近くにしゃがみこんだ。
「お帰り、穂波。予想通り、何にも変わってないな。」
呆れながら和葉は挨拶をする。
「ふ…、何を言う、和葉兄…。俺の美咲への愛はえいえ…ぐはぁっ、」
最後まで言う前に今度は美咲にお腹を踏まれた。
「………美咲、そのぐらいにしといてあげなさい。」
さすがに同情したのか、和葉が美咲を制止させた。
「だって兄さん…、」
美咲は不満そうだったが、そこで火に油が注がれた。
「そうよ、乱暴な美咲姉さん。美咲姉さんには穂波兄さんがいるんだから、
私の和葉兄さんにちょっかい出さないでちょうだい。」
しゃがんでいる和葉の腕に腕をからめたのは、千華子の娘の雨音だ。
「…なんですって、雨音?」
不機嫌のバロメーターがあるとすれば、美咲のそれはふり切れているだろう。
そして、穂波を足気にしている足に力がこもり、その下にいる穂波がまた苦しみ始めた。
「ちょっかい出してるのは雨音の方でしょ?!
兄さんは子どもに付き合ってる暇ないんだから、さっさと兄さんから離れなさいっ。」
「私、子どもじゃないもん。」
「どっからどう見ても子どもです。」
「だって私、ちゃんと働いて和葉兄さんを養えるくらいお金稼いでるもの。
美咲姉さんよりは大人だもん。」
「お金を稼いでるからって大人なわけじゃないのよ。
そんなことを言ってること事態、子どもの発想なのっ。」
和葉を巡っての女同士の戦いが勃発。
「み、美咲…、あ、足どけて…。し、死ぬ…っ、」
その足元で苦しんでる穂波。
「………。」
女同士の戦いの根源となった、全てを諦めたような顔をしている和葉。
「ちー、智尋、そっちは大丈夫だから、こっちでお菓子食べよう?
この店のお菓子おいしいのよう。」
そんな4人をスルーして、彩香が2人を手招きした。
楽しそうに用意されたお菓子をつまみながら雑談をする他の兄妹&甥姪たち。
これは確かに面倒くさそうだと、智尋は遠い目をしながら苦笑したのである。




