智尋の事情。・6
「あなたが、和葉さん…?」
「はい。初めまして、智子さん。本当はもっと早く来たかったのですが、
ちょっと仕事が立て込んでまして…。すみません。」
病室には智子と和葉だけだった。
今日は彩香が来れず、智尋もまだ学校だった。
「いいえ。いつも智尋がお世話になっています。」
「いえいえ〜。お世話してもらってるのはこっちのほうです。
智尋のおかげでだいぶ生活習慣が改善されて、助かってます。」
へらっと笑った和葉に智子は笑った。
「いつも私を気遣い、遠慮してわがまま一つ言わない子です。
高遠の皆さんと上手く付き合えるかどうかと心配していたのですが、
私と2人で暮らしていた時よりも、とても楽しそうに見えます。」
「智尋は良い子ですからね。みんな、智尋のことが大好きなんですよ。」
にこやかに笑う和葉を見て、智子は少し寂しそうに笑う。
「…あなたが作ってくださった曲、聞かせていただきました。
とても素敵な曲でした。」
「ありがとうございます。気に入っていただけて何よりです。」
「作詞もあなたがお書きになったと聞きました。」
「えぇ、一応。」
「聞いていて…、身につまされました。」
智子はまるで泣きそうな顔になる。
「あの子の幸せを一番に考えてきたはずなのに、
いつもあの子の笑顔を曇らせてきたのは、私なのですね…。」
智子は悲しそうに笑いながら、自嘲するように言った。
それを和葉はただ黙って聞いていた。
「教えてくれて、ありがとう。」
「…あの曲はあなただけじゃなく、智尋にも向けて書いてます。
あなた方親子はとても似ていますね。とても甘えるのが下手だ。」
「………。」
「頼ることも、頼られることも悪いことじゃない。それが大事な人ならなおのこと。」
和葉は智子を真っ直ぐ見据えて言葉を紡ぐ。
「智尋は俺たちに頼っていると自覚してくれた。だからその分、あなたに頼られたいんだ。
智尋のためを想うならば、あの子の想いを素直に受け止めてみてはくれませんかね?」
和葉は笑って言ったけれど、言葉は重く感じた。
だけど、智子は和葉の言葉を受け止めてくれたようだ。
「…えぇ。あの子に負けてられませんもの。
あの子が私を幸せにしてきてくれた分、いえ、それ以上に、私はあの子を幸せにしたいから。」
そう言った智子の眼は強く、真っ直ぐで澄んでいた。
和葉はただ嬉しそうに笑った。
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『どうか、お願い。幸せでいて。』
そう願うのならば、どうか、お願い。自分を見つめて。
あなたの笑顔がみたいのです。
でもあなたは偽りの仮面を付けて、素顔を見せてくれない。
それが苦しいのです。辛いのです。あなたはいつ、そのことに気付いてくれるのですか?
私を苦しめるのはあなたです。
私の幸せを作るのはあなたなのだから、苦しめるのもあなたなのです。
私の笑顔を見たいというなら、どうかあなたも本当の笑顔をみせて。
『あなたの幸せが私の幸せ。』
私も同じなのです。どうか私の願いを叶えて。
『どうか、お願い。幸せでいて。』
それに気付いてくれたなら、あなたの願いは叶うのです。
私の願いも叶うのです。
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『智尋の事情』はこれで終わりです。
読んでいただき、ありがとうございました。
次もまた、『○○の事情』を書きたいと思います。
よろしくお願いします。




