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遠い希望  作者: 桜舞姫
2/4

*その2

オープニング、その2です。

放課後、人の目を盗んでミウとミナを屋上に連れてくることに何とか成功した。

二人共、誘拐事件の後のためか元気がない。

キリカさんは、堂々と屋上の真ん中で仰向けに昼寝をしている。


「キリカさん、連れてきたよ~」


カナの言葉に、キリカさんはめんどくさそうに起き上がった。

それから、ミウとミナを見て少しだけ眉をひそめる。


「…そっくりだな」

「あ、でしょ?ミウとミナは、顔もスタイルも声も趣味も成績も、ほとんどそっくりなんだよ!」


カナの説明に私とミウとミナは頷く。

ミウとミナは、本当に見分けがつかないくらいよく似ている。

どちらかが鏡なんじゃないか、ってぐらい似ている。

だから、二人の両親も時々間違えるそうだ。

違う点と言えば、ミナが人見知りってことだけ。


「で、二人は犯人の顔を見てないんだな?」


キリカさんの質問に、ミウとミナは戸惑いながらも頷く。

当時の事を思い出したのか、二人の顔は青ざめている。


「声は聞いたのか?」


キリカさんの次の質問に、姉のミウが答える。


「なんていうか…。すっごく甲高い変な声でした」

「…ヘリウムガスを使ったな」


キリカさんの言葉に、カナが私に「ヘリウムガスって何?」と耳打ちしてくる。(あんたそれでも中学生か)

聞こえてたのか、キリカさんが律儀に説明する。


「無臭、無毒、無色で、空気より軽い希ガスだ。広告のバルーンや、子供が喜ぶような風船に使用されている。他にも、深海潜水用の呼吸ガスとしても使用されている。欠点といえば、使いすぎると体温調節が難しくなることだな。それと、空気に比べてはるかに高い。

ヘリウムガスを吸い込むと、甲高い声を発声することができるんだ」


ふわー。キリカさんって物知り…。

ヘリウムガスって、そんな特徴があったのか…。


「と、すると声で犯人を特定するのは不可能だな。犯人にはなんていわれたんだ?」

「えっと、『騒いだり逃げようとしたりしたら、妹を殺す』って…」

「ミナと似たような事を言われました」


それを聞いたキリカさんは、何か考え込む。

しばらくすると、キリカさんはミウとミナを見た。


「誘拐事件の後で帰り道も怖いんだろ?送ってやるよ」


ミウとミナが、心底ホッとした顔になった。

…キリカさんって、同級生の男子よりも男らしいな。




ミウとミナの家は、意外と学校に近かった。

帰ろうかと思ったけど、二人に「お礼がしたいから、せめてお茶でも飲んでってください」と言われたので中に入る。

高級そうな家具と絨毯がしかれた廊下が、最初に目に入った。

…すごい、お金持ちの家だ……。


「ミウ、ミナ!大丈夫だったか!」

「「おじさん!」」


双子らしく、ミウとミナの声がハモる。

リビングらしき部屋から出てきたのは、優しそうな男の人だ。

さっきの反応からして、ミウとミナのおじさんだろうな。(名探偵じゃなくても、これくらいの推理はできる)


「あ、紹介します。お父さんの弟のおじさんです」

「「「初めまして」」」


ミウに紹介され、私達三人は頭を下げた。

おじさんも、少し遅れて頭を下げる。


「これでも、元・警察官でしてな。しかし、姪の二人も守れなくて、犯人も捕まらないとあっちゃ、威厳もかけらもありませんが…」


礼儀正しく、たくさん話すおじさんだ。

話の内容からして、ここの近くにある一番大きな警察署に務めてたみたい。


「すみませんが、長居はできませんので…」


キリカさんが、ミナの入れてくれた紅茶を飲み終わると、立ち上がった。

私とカナも急いで立ち上がる。


「そうですか…。2人を送ってくださり、ありがとうございました」


おじさんが、少しさみしそうな顔をしながらも私達に頭を下げる。

私は、ふと疑問に思った事を聞いてみた。


「そういえば、ミウとミナのご両親は?」

「警察署で、犯人に目星がないかを聞かれてると思います」


ミナがすぐに説明してくれる。

さて、帰るか、という時に、私は見てしまった。

キリカさんが、ミウとミナのおじさんを険しい目で見ていることを…。



*   *   *   *   *



帰り道、キリカさんはブツブツ独り言を言いながら私達の前を歩いている。

うーん…。さっき、ミウとミナのおじさんを険しい目で見てたのが気になる…。

そんな事を考えてると、キリカさんはいきなり振り返った。


「二人共、もうこれ以上関わらない方がいい」


……え?

私とカナは、きょとんとした顔をしているだろう。

カナが私より先に口を開いた。


「な、なんで?」

「誘拐犯を相手にしてるんだ。中学生が太刀打ちできるわけないだろう。それに、もし犯人を見つけたとしてもただじゃ済まない。事件なんて、面白がって首を突っ込めば痛い目にあうことくらい分かるだろ?」


それだけ言うと、さっさと早足で歩いて行ってしまった。

私とカナは、黙ってキリカさんの後姿を見送った。


「私、やっぱり後輩のミナがひどい目にあったのに黙ってられないよ!」


いきなり、カナが真剣な声で言う。


「…うん、私も。ミウの仇くらいとってあげたい」

「じゃあ、明日キリカさんに直接申し込もう!」

「…何を?」

「手伝うんだよ!ホームズにワトソン!明智探偵に小林少年!名探偵には相棒がつきもの!」

「……はいはい、あんたが探偵ファンというのはよーく分かった」

「とりあえず、伝えたからね!明日、また屋上に行ってキリカさんにたのも!」


カナはそれだけ言うと、全力で走って行った。

取り残された私は、ため息をついた。




次の日の放課後、私達はキリカさんが帰ってないのを確認して屋上に向かった。

なのに、屋上には誰もいない。


「あれー?帰ってないよね?」

「うん…。どこ行ったんだろ…」


頑張って頭を回転させる。

……あ、そうだ。


「ミウとミナのクラスに行ってみよう」

「え?何で?」

「うん…。自信はないけど、キリカさんが二人の所に言ってる気がするんだ」


昨日、ミナとミウのおじさんを険しい目で見てたキリカさん。

もしかしたら、キリカさんはおじさんを怪しいと思ってるのかも。

まぁ、証拠も根拠もないからほとんど当てずっぽうだけど…。


「うーん…」


カナも、腕を組む。

その時、屋上の扉が開いた。

そこにいたのは、キリカさんとミウとミナ。


「…お前ら…」

「キリカさん!私もサヤカも、納得してないよ!ここまで首ツッコんだんだから、最後まで一緒にいさせてもらうからね!」


カナがキリカさんにズイッと近づいて叫ぶ。

キリカさんは眉間にしわを寄せて、ため息をついた。


「…しょーがねーな。危なくなったら自分で逃げろよ」

「もちのろん!」

「ミウとミナに聞いて、面白いことが分かったんだ」

「面白い事?」


キリカさんがニヤッと笑う。

八重歯があって、何かすっごくカッコいい…。


「事件に関係してるかもしれないことだ。あのおっさん、1000千万の借金をしてるんだとよ」

「「えええええ!?」」


1000千万…。

うーん、お小遣いが1000円の私には脳がついていかない。


「おじさん、実は警察署で問題を起こして首になったんです。その時、莫大なお金が必要になったらしくて…」

「もともと、パチンコや競馬によく行く人なんだとさ。それから、警察でありながらヤクザや不良と手を組んで暴力団ともめ事を起こしたりな」


…あの優しそうな顔からは想像もつかない。

人って見かけによらないんだ…。


「でもおかしいよ。だって、誘拐犯は身代金を2000千万。1000千万の借金にしては多すぎない?」


カナの言葉に、ミウとミナも頷く。

多分、おじさんだから犯人だと信じたくないんだろうな。


「問題はそこなんだよなぁ。しかも、「おっさんが犯人だ!」っていう決定的な証言も証拠もないし…」


キリカさんは腕を組んで唸る。

ミナが口を開いた。


「おじさんは私達の見分けがつくほどかわいがってくれたんです!私達を誘拐するわけがありません!」

「ミウ…」


必死におじさんの味方をするミナを見て、もしおじさんが犯人だったらと思うと可哀そうになる。

その時、キリカさんが目を見開いた。


「…待て、おっさんはお前たちの見分けがつくほどかわいがってくれたんだって?」

「は、はい…」


それで確信を得たキリカさんの表情を見て、ゾクッとした。

まるで、獲物を見つけた狼の表情…。


「分かったぞ!この勝負、勝った!」


キリカさんが再び八重歯を見せて笑う。

目の前の『名探偵』の目には、私達には分からない世界が広がっているんだろうな…。




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