トロリ秋の恵みのカルツォーネ8
一つだけ苦そうなパンが出来てしまったが、残りは皆美味しそうに焼き上がった。テーブルについた時、ジョゼフが居ないだけで何もかもいつも通りだった。
「祈りを捧げよう。死者よ、安らかに眠り給え」
レオの言葉に全員が祈りを捧げた。そして毎日やっているように各自の器に食べ物を取り分けていった。
「すまないが、取り分けながら聞いてください」
ボリスは皆の顔を見渡しながら話を切り出し、最後にアヴリルを見てから頷いて見せ、続けた。
「この度は大変ご迷惑をおかけした。本当にどうお詫びをしたらいいのか……申し訳なかったと思っています。しかしやっと真実を話せるとホッとしているのも事実です」
そこで皆の器にパンが行き渡ったのを確認し、食べながら聞いて欲しいと付け加えた。
「まず、ジョゼフは兄弟ではなく、俺とアヴリルだけは本当の兄妹です。ジョゼフは……俺達も実のところどんな人物なのかわからぬまま連れてきてしまったのが大きな過ちだった」
そこでアヴリルが横に居るボリスに自分から話したいと申し出て、ボリスはそれを許し口を閉じた。
「私には夫が居たのですが……兵にとられ、行方はわかっていません。そして、私のお腹には子供が宿っています。もちろん夫との子です」
アヴリルの手が自然と腹にいき、愛おしむように揺れていた。
「今、ストルカ国では子供を妊娠したのが見つかると否応なしに王宮に連れて行かれます。イライザ様が祝福してくださるという触れ込みでした。でも、誰一人戻って来た人はおりません。噂では防御の主が転生して産まれてくるのを待っているとか」
ここでアリシャの背に寒気が走っていった。確かにジョゼフもアリシャを回復のイライザの元に連れて行くと叫んでいた。
そこでレオが「そうか……。前からイライザは防御の主を探しておったが、とうとう転生していると考えるようになったのだな」と口を挟んだ。アヴリルははいと短く返事をしてから続ける。
「初めは幼児を連れてくるようにとのことだったのですが、今は妊婦を探しています。私はちょうど街に戻ってきたボリスに事情を話し、逃げたいと相談していました。そこに突然現れたのがジョゼフでした……」
アヴリルは唇を僅かに噛み、顔を顰めたが首を横に小さく振ってから再び口を開いた。
「戦場で死の淵にいた夫が私を心配し、ジョゼフに私のことを守ってやって欲しいと……ジョゼフの妻に迎えて幸せにして欲しいと……言ったそうです」
思わずドクが「ええ! アヴリル、そんなこと信じちまったのか?」と、声を上げた。
アヴリルは今にも泣きそうなほど表情を崩して俯いた。
「あまりにも夫の事を知っていたので……今思えばどこかで聞いただけかもしれませんし、ハッタリだったのかもしれませんけど──」
自らも妻を亡くしているナジが同情し「信じてぇんだよな。僅かな望みでもすがりてぇんだよ」と、呟いた。
「初めからボリスはジョゼフを信用していなかったのに……私は、私は本当に馬鹿でした」
俯いてしまったアヴリルに代わりここでボリスがもう一度語りだす。
「なんとなく胡散臭い奴だったし、まぁ信用ならないんでジョゼフとアヴリルだけには出来ないと思い二人とも連れてきたんです。俺とアヴリルで脱出するつもりが、ジョゼフはアヴリルと残るって言うんで……結局無理矢理ここまで一緒に来ました」
ボリスは首に近い後頭部の傷を触れて、忌々しげに眉根を寄せた。
「坑道に見せたいものがあると言われておめおめついて行った自分が情けない。頭を殴られ気を失い、目が覚めた時には縛られて転がってました。ここ数日、異常にアリシャの事を聞いてくるからなんなんだと思っていたが──アリシャ、君は防御の主なのだな。さっき聞いたよ」
話を振られたアリシャを、驚き見たアヴリルが「ウソ……」と呆然とする。その反応にアリシャは戸惑い、一応ぎこちなく頷いてみた。
「でも、私も最近知ったから……」
弁明することでもないのだが、反射的に言い訳じみたことを口にしていた。世間を混沌とさせているのが自分なのだと思うと空恐ろしいのだ。
「アリシャを誘拐しようとしたのはジョゼフにとって金づるだったからだろう。エドが阻止してくれて助かった。アリシャ、そして皆さんにもご迷惑おかけしました。本当にすいませんでした」
ボリスが頭を下げると、アヴリルも頭を下げた。
「もう、嘘はないのか?」
レオに問われるとボリスは顔を上げはっきりとありませんと答えた。
「皆の者、どう思う? 理由はあれど二人は嘘をついて結果、騒動に発展した。許して受け入れるか、それとも村から出ていって貰うか」
レオが全員に意見を求め、真っ先にジャンが手を挙げ発言した。
「ワシはある意味同じ立場だった。食料を盗んだが許してもらってここにいる。ならば、ボリスたちにもそういう判断が下ってほしいと思う」
それに続きウィンも「嘘は吐いていたけど、それは理由があったわけで……お腹の子を隠したかったってことでいいのかな? だから、二人には罪はないと思う」とジョンの意見に同意する。
私はと言いながらレゼナはアヴリルの方を見て微笑んだ。
「赤ちゃんが見たいわ。ふわふわのフニャフニャの子を抱きしめたいの。母になるって大変なことなのよ。だから、ここに残ってもらいたいし、残ってくれるなら全力でサポートさせてもらうわ」
ドクが器にあったパンを手に取り「嘘だけはごめんだ。信用出来なくなるからな」と、言ってガブリと食らいつく。
「あ、うめーなこれ! てか、あっつい!」
食ってみろとウィンに勧めて、ウィンもパンを口に入れた。そして綻ぶ表情。アリシャも釣られて緊張から解きほぐされて笑顔になった。
「温かいうちにどうぞ召し上がってください。さぁ、皆さんも。私は無事ですし、仲間は多いほうが楽しいです。だから、二人には残って欲しい」
レオは皆がアリシャの言葉に頷いたのを見て、ボリスとアヴリルに「そういうことだ。日々の行いで皆に謝意を示すといい」と締め括った。
それを聞いたナジが破顔して「子育てのことなら俺に聞いてくれ! なんせ二人も育てたからな」と宣言し、場を和ませていく。
いつもの和やかな空気が戻ってきて、口々に今日の料理を褒めちぎってくれた。
あまり和に入らないエドの元にボリスが歩いていって何か話しかけていた。二人は手振りを交えつつ語り合っていて、そんな二人を見ているのはアリシャにとってとても幸せな時間だった。
(ウィンよりもボリスとの方がエドは仲がいいのね。それなのに……)
そこまで考えてアリシャは自分の思考を追い払った。
(せっかく楽しい時間なのだから別にいいじゃない。気になるならエドにどうしてボリスに肩入れするななんて言ったのか聞いたらいいんだもの)
今は、芳ばしいキツネ色のパリッとした生地を齧る。するとトロっと中身が溢れ出すキノコたっぷりのパン。美味しくできた料理を楽しみながら和やかな時に身を委ねていたかった。




