トロリ秋の恵みのカルツォーネ4
それがレオの耳に届き、レオは直ぐにウィンの発言を否定した。
「そうではないぞ、ウィン。ここにいる誰もが容疑者だ。もちろん欠けた二人が怪しく感じるが、それだって話をしてみないことには何も始まらん」
「ドク様、探しましょう。早いほうがいい」
皆が立ち上がるとドクが「女子供は一人になるな。何かが潜んでいるともわからんから」と、動き出そうとしたのを止めて注意をした。
男達が先に宿屋から出ていき、ユーリは、兄と行くことになっているからアリシャはリアナと一緒に行くことにした。
「なんだか悲しいね、アリシャ」
先にリアナがいい、アリシャは頷くしかできなかった。森や川沿いを探す男たちのすがたを見て、アリシャとリアナは川向うのリリーのところに行くことにした。
橋を渡り始めると川からの冷たい空気に晒され、気持ちが滅入っていく。二人は何も話さずに板を踏みしめていく。
「アリシャ」
「うん?」
「ココは?」
そういえばアリシャの部屋で待たせたままだった。いつもなら直ぐに出してやるのに、気が回らなくて閉じ込めた状態で置いてきてしまった。
「部屋から出してあげるのを忘れていたわ……」
「出してあげにいく? リリーさんの所までは見通しもいいし、あちらの村にいる人に事情を話せば私は送ってもらえると思う」
直ぐそこにリリーの店に吊るしてある毛皮も見えているし、数人で立ち話をしているのも確認出来た。
「そうね。私は防御もあるし、一人でも大丈夫だからそうさせて貰う。ごめんね」
ココだって皆が集まってきたりしていたのは音でわかっていただろうから、いつもと違うことは感じているはずだ。それにいつもは自由にさせている時間帯なのだから閉じ込められてさぞ嫌な気持ちになっているだろう。
(防御があるなんて大見得をきったけど、果たして使いこなせるのか……)
リアナがリリー達に迎え入れて話をしだしたのを遠目で確認してから引き返した。
(リリーさんが知らない怪しい人を見かけていますように。そうすれば村の人ではないと言えるし、それがいい。お金は戻ってこないかもしれないけど)
ザワザワと川岸の木々が揺れていた。暗くどんよりとした空に雲が流れていく。橋の上から村を大方見渡せるが、誰の姿も見えない。
宿屋に戻るとジャンが広間で待っていた。
「どうだった? 見つけられたかね?」
アリシャは首を横に振った。
「リリーさんのところにリアナが行ってくれてます。帰りはあちらの人に送ってもらうように頼むってことになりました。私はココを部屋に閉じ込めたままだったので一度戻ってきました」
半分腰を浮かせていたジャンが残念そうに「そうか」と再び腰掛けた。
「嫌なものだな……。疑心暗鬼になるとギシギシして、空気が悪くなる」
ジャンはチリチリの髪を撫でて落ち着かせると、そうそうと話を変えた。
「さっき馬の声がしたが……聞こえたかい?」
「いえ……」
馬といったらアリシャのスリだけだ。誰かが使うにしても、必ずアリシャの許可を得ることになっている。
「ココを出してから見に行ってきます」
気をつけてな。とジャンが気遣ってくれた。カンテラの火に照らされた皺の影はいつもより深い。
アリシャはピョコンと頭を下げると一目散に自室に行き、ココを出す。待たされた反動でアリシャに飛び付くココをなだめると、家畜小屋に行こうとした。
しかしその前に、アリシャは村の入口付近にスリの姿を見た。居るはずのない場所にスリが居ることに心臓が凍り付き、次に人が乗っていることにも驚いた。
(なぜ? ジョゼフだわ。ジョゼフがスリに乗っている)
慌てていたから足元の小石でバランスを崩したが、とっさに出した手が地面につく前にふわりとしたものに押し返された。
(防御が出せた……)
とても自然に意識もせずに出来たことに驚いたが、今はそれどころではない。あたふたともつれそうになる足を動かしてスリの元へと駆けていく。
「待って! どこへ行くの!」
あらん限りの声を上げると、ココも同調して騒ぎ出した。手綱を握っているジョゼフはゆっくりと振り返ってスリの上からアリシャ達を見下ろしていた。スリは不満そうに首を振っている。
スリの元まで来たときには息がゼエゼエと上がっていた。とにかくアリシャもスリの手綱を掴んだ。
「スリは私の馬なの、どこに連れて行くの!」
ジョゼフは悪びれる様子もなく、落ち着かないスリがその場で足踏みを繰り返すのに合わせて揺れていた。
「どこって、ボリスを探しにだよ」
「スリは置いていって。私に断りもなく連れ出すのは困るの」
「……」
ジョゼフの口元が不機嫌に片方上がり、アリシャはそんなジョゼフに嫌悪感を覚えた。直感的にジョゼフという人間に言いようのない不快さを感じたのだ。
ジョゼフはスリに跨ったまま、素早い動きでアリシャの二の腕を掴んだ。アリシャはその痛みに小さく悲鳴を上げる。ジョゼフが豹変したのだ。
「なにをするの! 離して!」
前のめりの体勢でジョゼフは「それは出来ないよ」と、低い声で言った。そこからさらにアリシャの腕を捻じりあげて引き揚げようとする。
「来い! 防御のアリシャ!」
腕を掴む手ばかり見ていたアリシャの視線がジョゼフに向かう。すると目があった。
「あはは、まさか防御の主がいるとはな!」
アリシャは自分の顔が強張るのを感じた。ジョゼフが嘲笑っている。何か底知れない悪意を秘めた笑顔は目だけ燦々と輝いて気持ちが悪かった。
ココが果敢にジョゼフの手をめがけジャンプを繰り返し、そんなココに煽られてスリは右往左往し混乱状態だ。




