カボチャクリームぷにぷにニョッキ2
「一人か?」
レオもココの怒り方から他に誰かが居ると判断したらしい。ボリスは「俺の他に二人です」と人が居ることを隠さなかった。
「男か女か」
「俺と男一人、女一人」
やっとレオは扉の鍵に手を掛けた。
「いくら知り合いとはいえ時間が時間だ。警戒されるとは思わなかったのか?」
鍵を開けながら話しかけると、外にいるボリスもちゃんと言い淀むこともなく返していく。アリシャは料理部屋の炉に行き、炉から火をカンテラに移し戻ってきた。
「事情がありストルカから脱出してきました。出来るだけ休憩も取らずに来たのです。時間調整などする暇もなく」
扉が開けられるとレオが一歩室内に退き、そこにボリス達が入ってきた。
「こんな夜更けでなければ大歓迎されたろうに、ボリス。とはいえ、よく戻ってきたな」
夜の闇は魔物の時間だ。よっぽどの事がなければ招きいれることはない。大きな街で用心棒のいる宿屋ならば話は違うが。
「レオさん、ありがとうございます」
二人は握手を交わし、その後ボリスはアリシャに笑顔を向ける。
「暗闇でも相変わらずの美しさだね、アリシャ。元気にしていたかい?」
ボリスの明るさと軽さは健在で、ホッとしたような困ってしまうような複雑な気持ちのまま差し出された手に握手をしようとした。しかし、アリシャの片手には警戒を解かないココを、もう片方にはカンテラを持っている。
レオが気を利かせ、カンテラをアリシャの手から引き受けた。そこでやっと二人は握手をし、再会を確認し合った。握手を解くと、ボリスはココに手の甲の匂いを嗅がせてから頭を撫でてやっていた。
「そちらの二人は?」
レオが連れの男女にカンテラを持ち上げて顔を確認する。二人共フードを下ろして顔を明らかにした。
「俺の妹と弟です。妹はアヴリル二十歳。弟はジョゼフ……いくつになった?」
弟と紹介された男はかなり身長が高く、痩せていた。頬がこけているのも薄暗さの中でもはっきりわかる。
「ニ十四だ。どうも、よろしく」
ジョゼフはレオに手を出ししっかりと両手で握手をし、アリシャには屈んでハグをしようとした。しかし、ココが再び歯を剥き出し低く唸るのでジョゼフは後ずさって「よろしく」と言うに留めた。
「アヴリルです。夜分に本当にごめんなさい」
アヴリルの方はレオに謝罪しながら握手をし、アリシャにも手を出したがココが居たため、自分の胸に手を置いて軽く腰を落として挨拶をする。アリシャも倣って同じやり方で返した。
「さてと、宿は空いているが食事はどうする? アリシャ何か出せるかい?」
「はい。茸のキッシュなら残っています」
本当は季節が変わり日持ちするようになったので残った分をリリーの店に持っていく予定だったが、出せないなら出せないで仕方がない。
「でもあの……ニ十銅貨頂くにはちょっと物足らない分しか」
今夜の肉は好評で全てはけてしまってないのだ。
そこでボリスが低く口笛を吹いた。
「凄いなアリシャ。この前まで食事は確か銅貨十枚だったろ? 価値が認められたってことだな」
思わず赤面して「皆さんのご厚意で」と答えたが、レオがアリシャの肩に手を置いた。
「いや、アリシャの食事にはそれだけの価値があるのだよ。キッシュだけなら半額ではどうだろうか?」
レオが提案すると三人は顔を見合わせ「一応昼に狩りをして肉を食ったんで明日の食事からお世話になります」とボリスが答えた。
アリシャの隣に居たアヴリルが「茸はヤマドリダケ?」と、聞いてきたので「アンズダケです」と答えると、手を合わせて跳ねた。
「わぁ、アンズダケ大好きよ。あのピリッとした感じも香りも……」
「あ、では召し上がりますか?」
ボリスが横からアヴリルに「やめとけよ。調子が良くないくせに」と、止める。
「わかってるわ。アリシャ、後で匂いだけ嗅いでも──」
「アヴリルやめとけ。そのまま食おうとするだろ? まったく」
ボリスはアヴリル相手だと、どうやらいつもの愛想の良さは引っ込むらしい。嫌な感じではないが、さすが家族といった雰囲気だった。
結局三人は宿屋の二階で今夜は寝ることになり、やっと落ち着いて眠ることが出来た。
ただ、ストルカ国から《《脱出》》してきたという言葉がいつまでもアリシャの脳裏を離れず、遅くなったにも関わらず寝付きはすこぶる悪かった。ボリスが無事だったのは良かったが、ますます状況は悪化しているらしい。その波がここまで届かないことを祈るばかりだった。
そんなことを考えながら寝たせいか、久しぶりに両親の酷い姿を夢に見てしまい、朝は最悪な目覚めとなった。
ボーッとする頭を何とかしようと冷たい水を井戸から汲み上げて顔を洗っていた。
「ボリスが戻ってきたらしいな」
水を滴らせて振り返る。久しぶりに話しかけてくれたエドに驚いていた。それほど、最近はアリシャに近寄ろうともしなかったのだ。
「いやいや、顔を拭いてから振り返れよ」
アリシャが井戸に掛けておいた布を取ると、エドはそれをアリシャの顔に押し付けた。
「だって!」
「だってなんだよ」
「だって……エドってば私のことを避けていたでしょう?」
「いや?」
しれっと嘘をつくエドに腹が立ったが、とにかく顔をゴシゴシ拭いてから顔を上げる。
「避けてた、絶対に」
「防御覚える気なさそうだし、用もねぇだろ?」
それだって嘘だ。用もないのにつまみ食いをしに来ていたのはエドの方だ。
(あ……もしかして、本当にお腹が空いて来ていただけだったとか? 今はそんなに空かなくなったとか……)
「急に黙るなよ」




