そら豆のフリッターエビ塩掛け5
「だってお前らやたらと食うじゃないか。荷車だってもったし俺は間違っちゃいないぜ?」
それには荷車を引いていたルクが「じゃあ自分で引いてくれよ」と文句で返していた。
レゼナが二人に「とにかく荷を下ろさなきゃ」と、笑いながら割って入った。
「お金は掛かりますが良かったらうちで寝泊まりしてもらって、家が整ったら移るということでどうでしょうか?」
アリシャがおずおずと申し出るとそのつもりだったよと明るくナジが返した。
「じゃあ、えっと──」
レゼナは荷車の覆いを持ち上げて見ていた。横からナジが荷を説明する。
「鍋やらシーツみたいな生活の物以外は板と薪でさぁ、レゼナさん」
「あら、『さん』なんて付けないでいきましょうよ。私もナジと呼ばさせて貰うわ。板は資材置き場ね。薪は薪置場が村の外れにあるの」
「じゃあ、案内してください」
「ええ、空き家も数軒あるから選んで頂戴。皆、屋根は落ちてるけど壁は問題ないわ」
そりゃあいいと言いながら、ナジはルクに退くように指示を出し、自分が荷車を引き始めた。
「ああ、じゃあリアナはアリシャのお手伝いをしてあげて! 急に三人分のご飯が増えたんですもの大変だわ」
レゼナは荷車を押すのに手を貸しながら、やや叫んでいた。もちろん、ルクとユーリも荷車を押している。去り際リアナがユーリと目が合って手を振ると、ユーリも白い歯を覗かせて手を振っていた。
二人で荷車を見届けると、アリシャはリアナに軽く体当たりして茶化した。
「ユーリと仲良し!」
リアナもアリシャに体当たりして返す。
「アリシャだって! エドと仲良しじゃない。エドってなんかカッコいいのにズルいー」
「え? そうかしら?」
リアナはウンウンと深く頷いて「お祖父ちゃんを怪我させた狼は大嫌いだけど、エドは狼みたい」と言う。
どういう意味なの? と問い返すアリシャにリアナは大真面目に答えた。
「崖の上で風に毛を靡かせて澄ましている狼ってカッコいいの。見たことある?」
「んん、ないわ」
「強くて、誇らしい感じがして……カッコいい!」
頭の中でイメージしてみてアリシャの出した答えはこうだった。
「澄ましてる感じ?」
リアナは違うってばとアリシャの腕をピシャリと叩いた。
「高貴な感じ! それに、アリシャには優しくてなんだか良いなぁって思うんだー」
優しかった記憶があまりないが、時々……ほんのたまに、確かに優しい時もあったような気がする。
二人は並んで宿屋に向けて歩き出す。もちろんココも二人の周りを今日もうろちょろしていた。
「リアナがエドをそんな風に見ていたなんて驚き」
しばらく二人はエドの話で盛り上がり、アリシャはこんな風に同じ年頃の女の子と話が出来る事に喜びを感じていた。
料理部屋に戻るとドクが毎日届けてくれる野菜を確認した。レオに助言された通りこれからは毎日ドク一家の野菜を届けて貰ってそれを買い取る事になった。一日に五十銅貨分の野菜を見繕って届けてくれるのだ。そんな訳で届けられていたカゴを覗くと溢れんばかりのそら豆が入っていた。
リアナと二人で大鍋にそら豆を入れ茹で、皮から豆を出していく。鮮やかな緑色ばかり見ているとなんだか夢に出てきそうだった。
「そら豆って何にするの?」
リアナに質問されたが、それはアリシャも聞きたいくらいだ。ちょっと皿の横に乗っている位ならわかるが、今日のそら豆はそんな生易しい量ではない。
「そうね……うーん」
まず浮かんだのはやはりフリッターだ。衣を付けて揚げるとそれっぽくなるし、何故か美味しく感じるので、困った時はフリッターにする癖がついている。
アリシャは要らないサヤを空いているカゴへと放り込みながら料理部屋もを見回した。
「あ、これだわ!」
立ち上がって棚に並んだ小さな壺を取り上げて中身を確認した。前に作った粉々のエビの殻だ。
「それは何?」
リアナもエプロンに乗せておいたサヤをカゴに纏めて落とし込んだ。これは豚がキレイに平らげてくれる予定なのでキチンと残しておくのだ。
「エビの殻よ。揚げてすり潰してあるの」
壺の中身をリアナに見せると、リアナは鼻をヒクヒクとさせた。
「殻なのにいい匂い」
アリシャはエビの殻が出る度に、この面倒な作業を繰り返していた。なんせ、これを入れるとなんでも少し美味しくなるのだ。シチューや炒めものに隠し味で入れている。今日はこれをもう少し目立つ使い方にしようと考えた。
「卵を持ってきて卵白を泡立てるでしょう。塩を入れてしっかりとね。それとは別に卵黄と小麦粉と牛乳を混ぜて──」
アリシャが調理法を説明していくと、作りながらじゃないとわからないとリアナが言うので、端折って最後だけ言うことにした。
「とにかく、衣を付けて油で揚げるわけよ。で、これの出番。たっぷりエビの殻の粉と塩をかけたら出来上がり!」
リアナは嬉しそうに手を叩いた。
「私、そら豆ってそのままじゃあんまり好きじゃないから嬉しい」
その気持ちはアリシャにもわかる。不味くはないが沢山は食べたくない。味が薄いし飽きてしまうのだ。
「お肉は手抜きして塩漬け肉を茹でようかな。ベリーのジャムを入れて甘じょっぱくしましょう」
「美味しい!」
「まだ食べてないのに」
二人は笑いながらせっせとそら豆を剥いていく。時々ピョンと飛び出した豆は待ち構えていたココがパクリと頬張るがそれくらいは多めにみてやる。むしろ可愛くてわざと飛ばしてやりたくなるが、そこは我慢しておいた。




