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8

 ココはこの馬小屋の横にある部屋で面倒をみて貰っていたらしい。再会を喜ぶココだったが、元気がないとか拗ねている感じはまるでない。どうやらとても満足いく環境だったということだ。


「ねぇ、私は寂しかったのよ? ココはそうじゃないの?」


 アリシャが問いかけても、ご機嫌でしっぽを振っているだけだった。


 エドがココを撫でてやると、アリシャの事など忘れてしまったように甘えだす。それを見て拗ねたのはアリシャで、ボリスは笑ってみているだけだった。


「ココは順応性が高いな」


 リードをつけられて歩き出したココを眺めながらボリスがついていく。リードを持っているのはエドで「誰かさんとは大違い」と暗にアリシャをさしていう。


「違うわよ。私は情に厚いの!」


 薄情なココに並ぶと、ココも負けじと前を歩こうとする。だからアリシャとココは塀の上部へと向かう階段を駆け上がっていく。リードを持っていたエドが「お前が持てよ。走るなら」と投げて寄越したのでアリシャはそれを受け取って二人を置いてどんどん上がって行った。


 てっぺんまで来ると息が上がっていた。顔を仰向かせると青空以外何もなくて、ドナ村の空を彷彿とさせる。ガリアナは素晴らしい街並みだが、空は狭かった。建物の合間に見る青空はパッチワークみたいで何となくこれまで知っていた空とは違って見えていた。


「ほら、見てごらん」


 空ばかり見上げていたら後から来たボリスがアリシャの肩を叩いて注意を引いた。指さす先は皆で歩いてきた道、それからそれに続く跳ね橋。


「敵をここから攻撃するんだ。俺たちも弓を使って──」


 驚愕したアリシャはくるりと振り返って「俺たちもって……戦闘に参加するの?」と詰め寄った。


「むしろ参加しないって選択をする理由を教えてくれ」


 エドに言われてパクパクと口だけ動かして言葉が出てこないもどかしさを味わった。


「な? 元々は俺たちが逃げて来たからここまでイライザが来るんだ。俺たちの戦だろ」


 どこか他人事だったとアリシャは改めて自分の愚かさを思い知った。兵士が戦うのは当たり前だと思っていた節があり、どういう訳か村人がこの戦いに参加するなどとは考えていなかった。アリシャの力だけ使うことになるのだろうと漠然と考えていた。


「あ、あ、危なくないのかしら? ……危険はないの?」


 現実を見せられてアリシャは動揺していた。二人が戦闘に参加するなら、傷を負う可能性がある。


「狩りだって危険はつきものだ。ましてや動物の方からは人間を狙ってこないが、もし戦になれば互いに狙うのは相手の命。残念ならが危険はあるよね」


 ボリスに言われて、アリシャは奥歯を食いしばった。泣きそうになったからだが、もう泣かないと決めていた。エドの前では泣きたくない。


 エドがアリシャの目を覗き込んで「泣こうとしてるな」と指摘するから、アリシャはツンと鼻の頭を持ち上げた。


「勝手に決めないでよ。泣かないわ」


 エドとボリスは互いに笑みをかわして、それからエドがアリシャの額にキスをした。


「その調子だ。お前を守りたいから俺たちは戦う。だからお前も全力で守ってくれよ。俺たちの事も戦いに巻き込まれた兵士たちの事も」


 あまり人前でエドがアリシャに触れてくることがないので、アリシャは驚きを隠しつつ頷いた。


「魔力を使うことは反対じゃないの?」


「普段から気安く使うのは反対だけど、今回は違うだろ。ここで使わずどこで使うんだよ」


 優しい口づけだったのに、今はもう呆れていて、エドは違うところを見てしまった。


「まあ、あっち側の矢だけ防御するって難しいよな」


 二人のやり取りを繕うようにボリスがいい、三人は揃って塀に手を乗せ掘りを見つめていた。


「のぞき穴みたいにこっち側だけ射る穴とかつけられる?」


 ボリスの言葉にアリシャが唸って想像してみた。


「一人や二人分だったら出来るかもしれないけど、きっと物凄い数でしょ? ちょっと出来そうもないかな……作る物を頭で想像して防御(カライズ)を出すのだけど、そんなに細かいものを出したことはないから」


「そうだよなぁ。アリシャがそんなに器用だったら縫物もお手の物だろうし」


 ボリスに痛いところを突かれて、アリシャはボリスの肩を押した。押されたボリスは笑っていたが、横でエドも口に笑みを浮かべていた。


 翌日のことだった。いつだって太陽は昇るし日は落ちる。そして来てほしくない瞬間は容赦なくやってくるものだ。


 にわかに慌ただしくなったガリアナの街。アリシャはその騒々しさで目を覚ました。異様な空気を察し服を着込むと部屋を飛び出した。廊下には村の人たちも出てきていて、そこにイザクが顔を出した。イザクは既に(ギャンベゾン)を身にまとっている。


「イライザ一行が姿を現したと連絡が入りました。兵は持ち場についております。皆さんも順次指定の場所に向かっていただきたい」


 言い終えるとイザクは真っすぐアリシャの元へと来て「参りましょう。アリシャ様」と、頭を垂れた。


 その様子を見て、レゼナがアリシャの部屋に飛び込んで外套を持って戻ってきた。


「私たちは何も出来ないから救護隊の元へ行くわね」


 そう言うと外套をアリシャに着せてハグをした。それに習ってリアナが、次にユーリもハグをして、最後にジャンもアリシャにハグをした。


「無理をなさらんように」


 ジャンがそう言って足を引きずって去っていく姿を見つめていた。


 エドとボリスは弓を持っていて、ドクとナジは剣を持たされていた。


「剣なんか振るうのは久々だな!」


 明るく言うと、抜刀しドクが剣先を眺めた。アリシャはビクッと震えたがレオが「恐れることはない。きっとうまくいく」と震えたアリシャの肩を両手で抑えて勇気づけた。



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