一寸法師の敵
村の中心に土俵が作られていた。
その縄は目線と同じ高さ。
巨大な足が凄まじい勢いで現れ、つぶてを飛ばす。
「一寸!」
遥か上空から声が。
「お前みたいなチビ! 勝っても嬉しくねぇ! 踏み潰されん内にけぇれ!」
太陽の傍にある赤ら顔を見る。
睨みながら石を拾い、足にぶつけてやる。
砂粒のようなそれは、簡単に弾かれた。
目の前で五本指が持ち上がり、地面を打つ。
地鳴りと共に体が浮き上がり、全身につぶてが襲い掛かった。
成人の儀が執り行われた日。
俺はただ、駆けた。
雑草を掻き分け、逃げ出していた。
「ははははははは!」
声を張り上げる。
鬼がいた。
姫が食われそうだ。
『肝無し一寸!』
体がカっと熱くなる。
鬼は地響きと共にこちらへ歩いて来ていた。
――待っていた! ああ! 待っていた!
岩のような足が迫る。
風が全身を押す、その勢いで飛び上がった。
爪先が裾を霞め、服が千切れる。体勢を崩した。
景色が回る、小枝が視界の端に。蹴った。
鬼の腕に。
駆け上がり、丸太のような首へ。針を振りぬく。
瞬間、大口が視界を埋めた。
闇の中。
考える間もなく、凄まじい力で引き込まれる。
肉にぎゅうぎゅうと潰される。かと思えば空洞に落とされた。
(くさい)
立ち上がり、重くなった着物に顔を顰める。
胃の腑の中だった。
暗闇を見回し、手を付く。
肌がピリつき、草履が溶け落ちた。
逃げ場がない。
喉が震えた。
笑いがこみ上げる。
周りは柔らかい肉、肉――
全身に力を込める。
針を、振り上げた。




