第8話 計算される太陽
目を覚ますと、
隣には誰もいなかった。
寝台の上。
夜の名残だけが残っていて、
布は整えられている。
部屋を出て、
リビング、庭へ続く扉、
どこを見ても白衡の姿はない。
――もう起きているのか。
昨日は、二度も儀式を行った。
身体に重さはなく、
むしろ妙に調子がいい。
とりあえず、風呂に向かう。
内風呂も、露天も、
静まり返っている。
湯に身を沈めながら、
昨夜のことを思い返す。
淡々としていて、
感情が入り込む余地がない儀式。
今日予定されている、五回。
回数を思うだけで、
胸の奥に小さな不安が芽生える。
ふと、前任の太陽神のことが頭をよぎった。
召喚されて間もなく、
任期と引退の話は聞かされている。
明確な年数は決まっていない。
だいたい四、五年。
次の神を召喚できるだけの力が整ったら、引き継ぐ。
引退後は、
十分すぎる退職金と、
年金のような支給が一生続く。
住む場所も自由。
国も、大陸さえ選べる。
条件だけ見れば、
これ以上ないほど恵まれている。
――それだけの責任、ということか。
昨日の白衡の言葉を思い出す。
「万が一にも、力が足りなければ困る」
世界の天候。
国の安定。
そのすべてが、自分に委ねられているらしい。
けれど、実感がない。
重さの感じ方すら、分からない。
湯から上がると、
食堂に白衡がいた。
すでに身支度を整え、
食事が並べられている。
「先に起きていたんだ」
「計算していた」
短く答え、
食事を勧めてくる。
「食べたら、すぐ一度目を」
肯定も否定もせず、
陽奈は席についた。
空腹に気づく。
思った以上に、食が進む。
食後、
何も言わずに寝台のある部屋へ向かう。
儀式は、昨日と同じ流れで行われた。
静かで、無駄がなく、
それでも確かに、力が流れる。
終わったあと、
陽奈は寝台に仰向けになった。
疲労は、ほとんどない。
白衡は上半身だけ起こし、
腕の紋章を確認している。
「……どう?」
「少し、戻った」
「少し、って」
「想定内だ」
そのまま、ぽつぽつと話が続く。
西月の国の気候。
乾いた風。
名物の保存食。
説明は簡潔で分かりやすく、
国をよく知り、
守ろうとしているのが伝わる。
思っていたより、
冷たいだけではない。
雑談が終わると、
白衡は視線を戻した。
「では、次だ」
「……今?」
「間隔を詰めた方が、効率がいい」
当然のように告げられる。
拒む理由を探す前に、
儀式は、また始まろうとしていた。
――今日は、長い一日になりそうだ。
そう思いながら、
陽奈は天窓を見上げた。




