第7話 義務として、触れる
「義務として、触れる」
西月の神――白衡は、
馬車を降りた瞬間から、南月とはまるで違っていた。
細身の体躯。
整えられた衣服。
視線は鋭く、余計な動きがない。
「西月の神、白衡だ」
それだけ告げると、
形式的に一礼し、すぐに要件へ入った。
「滞在は十二日間。
必要なのは、天候を安定させるだけの力だ」
声音に感情はほとんどない。
歓迎も、遠慮もない。
施設へ向かう道すがらも、
彼は景色に興味を示さず、
儀式の段取りだけを淡々と確認した。
「対面後、すぐ一度目を行いたい」
「……今から?」
「効率を測るためだ」
仕事。
その言葉が、彼の態度すべてを説明していた。
⸻
儀式は、静かに始まった。
南月のような熱はない。
触れ方は最小限で、必要な工程だけをなぞる。
義務的。
それでも、陽奈がかつて知っていた“行為”よりは、
ずっと整理されていて、雑味がなかった。
終わったあと、
白衡はすぐに腕の紋章を確認した。
色は、ほとんど変わらない。
「……やはり」
小さく息を吐き、
冷静に計算を始める。
「前任の太陽神は、もっと効率が良かった」
前任者。
四年間、太陽の神を務めた存在。
「比較して、どう……?」
白衡は率直に答えた。
「君の力は弱い。
悪い意味ではないが、事実だ」
紋章を見せながら、続ける。
「一日三回。
安全を見て、四回。
初日は念のため、五回行いたい」
「……多すぎない?」
「万が一、満たなければ国が揺らぐ」
当然だろう、と言わんばかりの口調。
「前半で回数を増やすのは合理的だ」
理屈は正しい。
それが、余計に反論しづらい。
その日はもう夜だったため、
残りは翌日に回すことになった。
寝台に並び、
白衡も同じ部屋で眠る。
距離は近いが、
温度は感じない。
⸻
夜中、
微かな布擦れの音で目が覚めた。
天窓を見上げると、
月は雲に隠れている。
気配が、近い。
白衡が身を起こし、
静かに覆いかぶさる。
「……二回目だ」
囁くような声。
予定通り。
ただ、それだけの理由。
驚きで息を呑むが、
言葉はすぐに出てこない。
「効率を測るには、間隔を詰めた方がいい」
説明はそれだけ。
同意を待つというより、
了承されている前提の動き。
陽奈は、
拒むほどの理由を見つけられなかった。
儀式は、長く続いた。
静かで、淡々としていて、
それでも確実に、力が流れていく感覚がある。
終わりが近づく頃、
思考が白くなる。
――仕事。
ただの、仕事。
そう言い聞かせる前に、
意識は途切れた。
次に目を覚ますとき、
何回目の儀式になるのか。
それを考える余裕は、
もう残っていなかった。




