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触れられるたび、月は満ちる。 神であることは、拒めないということだった。  作者: Carrie
南月編

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第5話 庭に降りる音

昼食前、静けさを切るように鈴の音が鳴った。


澄んだ金属音が、施設の外から一度だけ響く。

聞いていた合図だ。


ほどなく、内側の扉が解錠され、こちらからも鈴を鳴らす。

それを合図に、世話係と清掃係が入ってくる。


思っていたよりも人数が多い。

無言で、流れるように動く。


食事は一日に一度、十分すぎる量が運ばれてくる。

台所に整然と並べられ、清掃が始まる。


私たちは庭へ出て、用意された椅子に腰掛ける。

世話係と視線が合うことはない。

接触も、会話もない。


ただ、役割だけが交差して、また離れていく。


――仕組みとして聞いてはいたけれど。


この施設は、思っていた以上に広く、

そして、完全に切り離されている。


やがて再び鈴が鳴り、彼らは去っていった。


中に戻ると、急に空腹を自覚する。

胃が、はっきりと音を立てている。


「……こんなに、減るんだ」


力を渡したからなのか、

儀式そのものの消耗なのか。

理由はわからないけれど、身体は正直だった。


二人で昼食をとる。

量は多いのに、不思議と重くならない。


食後、庭園を散歩することになった。


庭は広く、歩いても歩いても端が見えない。

敷地がどこまで続いているのか、見当もつかなかった。


歩きながら、炎嵐がこの世界の仕組みを話す。

四つの月の国のこと。

天候と国の安定のこと。

南月の国の現状。


私は相槌を打ちながら、別のことを考えていた。


――苦痛は、ない。


前の世界で感じていた、

あの“面倒さ”は、ここにはない。


儀式の最中、疲れるという感覚もない。

身体はむしろ軽く、調子がいい。


ただ、終わったあとにだけ、

「これでいいのか」という問いが残る。


精神的な引っかかり。

それだけ。


だから、限度は一日に一、二回だろう。

そんなことを、ぼんやり考えていた。


気づくと、東屋のような休憩所に着いていた。


腰を下ろすと、炎嵐がやけに近い。

肩が触れるほどの距離。


視線を感じて顔を上げると、

彼は真っ直ぐこちらを見ていた。


近い。

とにかく、近い。


「……なに」


私がそう言うと、炎嵐は迷いなく言った。


「もう一度、だ」


要求なのだと、すぐにわかった。

遠回しではない。

彼はいつも、こうだ。


庭の空気の中で、

儀式は再び始まる。


天は高く、

太陽はまだ強い。


私は目を閉じ、

流れに身を任せた。



夕方。


長椅子に並んで座り、

一日の出来事を思い返す。


朝の目覚め。

露天風呂。

昼の儀式。

庭の静けさ。


十二日のうち、まだ一日目だ。


それなのに、

ずいぶん遠くまで来た気がしている。


月は、まだ高くはない。


けれど確かに、

少しずつ、満ち始めていた。


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