第20話 北月
十五歳になった年、
初めて太陽の神と対面した。
そのとき在位していたのは、
二代前の太陽の神だった。
今の太陽の神とは、
雰囲気がまるで違った。
よく笑い、
よく話し、
人の距離に、ためらいがなかった。
こちらが無言でも、
気にする様子はなく、
一方的に空気を埋めてくれる。
――不思議な人だと思った。
儀式については、
事前に説明を受けていた。
北月の力は強い。
特に慎重に行うように。
そう、念を押されていた。
自分でも、
それは分かっていた。
山の祠に近づいたとき、
身体の奥に満ちる感覚は、
他の月の神よりも、
はっきりとしていたからだ。
それでも、
「やってみなければ分からない」
そう判断されたのだろう。
最初は、
問題なかった。
太陽の神は、
穏やかな顔で横になり、
こちらを見ていた。
「大丈夫だよ」
そう言われた。
力を流し始めたとき、
空気が少し、重くなった。
いつもより、
速く。
いつもより、
深く。
――あ、と思った。
次の瞬間、
太陽の神の呼吸が、
すう、と浅くなった。
目を閉じたまま、
動かない。
眠ったのだと思った。
最初は。
だが、
声をかけても反応がない。
肩に触れても、
まぶたが動かない。
「……?」
おかしい。
胸が、
わずかにざわついた。
世話係を呼ぼうか、
そう考えたが、
その前に、もう一度声をかけた。
返事は、なかった。
そのまま、
三日間、
太陽の神は目を覚まさなかった。
眠っているように見えた。
呼吸も、
脈も、
すべて正常だった。
ただ、
意識だけが、
どこにもなかった。
初めて、
はっきりと「焦り」を感じた。
神としてではなく、
個として。
自分の力が、
誰かを壊したのではないか。
そんな考えが、
頭から離れなかった。
三日目の夜明け前、
太陽の神は目を覚ました。
「夢を見ていた」
そう言った。
どこか、
遠くにいたような顔で。
後で分かったことだが、
力が一気に流れすぎて、
意識が遮断されたらしい。
世話係は、
「例えるなら、
強すぎる電流で
回路が落ちたようなもの」
と説明した。
太陽の神は、
笑っていた。
「北月くんの力、
すごすぎるね」
その笑顔が、
なぜか胸に残った。
それ以来、
太陽の神との儀式は、
行われなかった。
代わりに、
同じ寝台で眠り、
必要最低限、
体に触れるだけ。
それでも、
紋章の色は回復した。
問題は、なかった。
だから、
それでいいのだと判断された。
だが――
自分の中では、
ひとつ、線が引かれた。
「やらなくていいことは、
やらない」
それは、
恐怖というより、
自然な選択だった。
その後、
別の月の神と儀式を行う機会もあった。
だが、
あのときの光景が、
必ずよぎった。
意識を失った太陽の神の顔。
静かに横たわる姿。
だから、
慎重になった。
そもそも、
近くにいるだけで、
力は戻る。
無理をする理由は、
どこにもなかった。
――そう、思っていた。




